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俗に言うアレ

第219話

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 窓の開いた、教室の窓辺。

 リコーダーの音色が聞こえてくる、3階の音楽室。

 廊下では、生徒の声が反響していた。

 スリッパで登り降りしている階段の音も、机や椅子をひこずっているホームルーム後の騒がしさも。


 体育館から聞こえるホイッスルが、日差しの陰る午後の静寂をつつきながら、花の咲いた百日紅の葉を揺らしていた。

 いつもと変わらない光景だ。

 教室の窓の向こうに見えるカーテンの色も、明かりのついた職員室の忙しない様子も。

 担任の佐藤先生が職員室の中にいる。

 窓際の席だから外からよく見える。

 特徴的なパーマと、肩パッドの入ったスーツの後ろ姿が、“いつもの先生”って感じだ。

 早速サーブの練習をしてるテニスコートには、見覚えのある先輩たちが。

 あれは早川先輩かな?

 超モテモテの王子様ルックス。

 確か、全国区なんだよ。

 黄色い声援を送ってる謎の女子グループたちが、フェンスの向こうではしゃいでた。

 今日もいるなぁ…

 キャーとかワーとか、先輩は嫌じゃないんだろうか…?

 人生でモテたことないからイマイチわからんが、気が散ってしょうがないと思う。

 俺なら「散れ!」って言うだろうな。

 っていうか俺の場合、「お前が散れ」って言われる可能性がある。

 女って意外と怖いんだよ。

 か弱いフリして、普通に肩パンとかしてくるし。


 グラウンドの隅にある部室棟の一角には、出入りしているジャージ姿の女子がいた。

 多分サッカー部?

 わかんねー。

 時々ソフト部のマネージャーが、ジャージでうろちょろしてる時があるから、ワンチャンソフト部?

 でも動き的にサッカー部っぽいな。

 ソフト部だったら、この時間はランニングの手伝いとかしてるはず。

 陸上部と同じで校内を何周かしてるんだけど、わざわざストップウォッチで時間を測ってるんだ。

 ソフト部はわりと厳しいらしい。

 サッカー部なんかよりはずっと。

 まあ、俺たちほどじゃないが、サッカー部はサッカー部で去年立ち上がったばっかだからしょうがない。

 共学になって、いくつか設立された運動部の1つって事で、まだまだこれからって感じの部だ。

 サッカーゴールだって、使わなくなった小学校から中古で仕入れたらしい。

 人数もけっこう少ない。

 流石に、11人以上はいるけど。


 「野球部」の姿は、そこにはなかった。

 正確には「部」じゃないけどな?

 人数も揃ってないし、顧問は兼任だし。

 部室には明かりがついてなかった。

 グラウンドに出てる様子もない。

 この時間なら、健太やツバサがとっくにストレッチでも始めてるはずなのに。
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