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俗に言うアレ
第218話
しおりを挟む海沿いを走り、浜手交差点前まで来た。
背の低い須磨駅の駅舎が見える。
高層ビルが建ち並ぶ街並みを抜けて、突き抜けた空の広さが、ぐっと近づいてくるように降りてきた。
赤茶けた陽の光に照らされる、タバコ屋の前の郵便ポスト。
電信柱のすぐ横にある、ダイドードリンクの自販機。
昔から変わっていない、小洒落たサーフボードのお店。
すぐそこに大都会の街並みがあるはずなのに、須磨駅の周りはどこかこじんまりとして、どこか、田舎臭い。
狭いと言うかなんというか、懐をくすぐるような安心感が、近くにある。
いつもそばにあるんだ。
街の喧騒とは無縁の肌を撫でるような手触りや、太く長閑な息遣いが。
塩気を含んだ南からの風が、鼻の中に透き通る。
——放課後、自転車で通るときはいつもそうだ。
鉢伏山の輪郭が海岸線の麓まで降りてきて、国道沿いの明かりが、細長い線路の向こう岸まで続いている。
流れるような景色のそばで、白い砂浜が街の全部を覆うように広大で、駅のホームに並んでる人たちが、夕暮れ時の日差しの下に佇んで。
見晴らしがいいと言えば見晴らしがいい。
ゴミゴミした街の中とは裏腹に、水平線の向こうから届く磯の匂いが、瀬戸内海の青を連れてくるから。
視線を傾ければ、須磨の穏やかな風景がそこにある。
ガードレールを曲がった先や、防波堤の階段を登った先に。
三ノ宮も地元のようなもんだが、ここらへんとはちょっと違うんだよな。
どこがどうってわけじゃなく、なんとなく、街全体の雰囲気というか。
「須磨浦高校」と書かれた正門を抜けて、自転車をテニスコートのすぐ裏に停めた。
だだっ広い敷地に、塗装の剥がれたサッカーゴール。
校内をランニングしてる陸上部の掛け声が、運動部で賑わうグラウンドの中に響いてた。
ソフト部もサッカー部も、これからストレッチを始めるところだろう。
ネット際にかけられた誰かのタオル。
それから、立てかけられたテニスラケット。
ペットボルトの麦茶が、ラケットのそばで汗ばんでた。
9月と言っても、まだ少し暑い。
今年の夏はとくに暑かった。
気象庁によれば、今年は記録的な猛暑らしいっけ?
40度だぞ40度。
そのうち、50度とかにいくんじゃないか??
だって毎年、ちょっとずつ暑くなってる気がするし…
温暖化か何か知らないけどさ。
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