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好きっていうかなんていうか
第184話
しおりを挟む「ずっと聞きたかったんやけど…」
思わず、そう呟いてしまう。
意図した言葉じゃなかった。
そんなんじゃないんだ。
本当は。
薄々わかってた。
なんで、彼女が俺に声をかけたのか。
なんで、野球を始めたのか。
そんな難しいことじゃないと思うんだ。
いちいち先のことを気にして、行動するタイプじゃない。
困ったらいつもストレートだった。
サインなんて関係なしに、ただ、マウンドの上で、人差し指を立てるジェスチャーをして。
「聞きたいこと?」
「…いや、その」
病室で、ずっとお前に尋ねてた。
どうやったら、目を覚ましてくれるんだって。
だけど、そんなこと、今のお前に聞いてもしょうがないよな?
なんて言えばいいかわからなかった。
思うように言葉は続かなかった。
どうしようもないくらいに。
それをどう表現していいかもわからない。
なにを、伝えればいいのかも。
坂道の途中で海が見えた。
ガードレールの下に広がる須磨海岸の海原。
見渡す限りの光が、波際を泳ぎながら揺らめいていた。
水面はどこまでも緩やかで、それでいて青い。
真っ青だ。
瞬きもできないくらいに、澄み切った青が広がっている。
空と、雲。
——蝉の声。
騒がしい夏の景色のそばで、なぜか、自転車に乗ってる気がしなかった。
それくらい、何もかもがスローモーションに見えた。
当たり前の景色のはずなんだ。
目の前に広がっている海も、雨の予感さえしない空の色も。
雲が通り過ぎるのをアスファルトの影の下に感じて、ふと、空を見上げた。
手の届かないくらいの背の高い9月が、そこにはあった。
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