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アナザーワールド
第163話
しおりを挟む「…ごめん」
どうやら、恥ずかしいところを見せてしまったようだ。
動揺してたのは俺じゃない。
彼女だ。
自分でもびっくりした。
急にだもんな。
人前で泣いたことなんてなかったのに…
「お、おう…」
恥ずかしい気持ちと、嬉しい気持ちと。
他にも色んなものが綯い混ぜになってる。
控え目に言ってぐちゃぐちゃだ。
直視できなかった。
目の前の、彼女を。
「ハグしてもいい?」
「は!!?」
何言ってんだ、俺。
思わず手を伸ばしそうになった。
確かめたかったから。
彼女が「千冬」なら、ちゃんと手に触れられるのかどうか。
「おいおいおいおい!」
彼女は後ずさった。
すごい勢いで。
どうやら、かなり嫌がられてるらしい。
…てか、そんな剣幕になんなよ
もし本当にキミが“彼女”なら、感動の再会なんだぞ
「どこ行くねん」
「ふざけんな!」
なにがふざけんなだ。
こっちは、ずっと心配してたんだ。
もう二度と目を覚まさないかもって、何度思ったかわかってんのか?
ずっと会いたかったんだ。
どんな形でもいいからって、神様にお願いもして…
「…ちょっ、まじでやめ…!」
心臓の音。
涼やかなオレンジの香り。
思い出した。
初めてバッテリーを組んで試合に勝った時、千冬が俺に抱きついてきた。
それこそ、肋骨が折れるかっていうくらい強く。
あの時に感じたほのかに甘い香りが、鼻の奥に掠めた。
…懐かしい
そんな夢のような感覚に使っていたのも束の間、急に視界が暗くなった。
…思いっきり、ビンタされたからだ。
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