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アナザーワールド
第161話
しおりを挟むあの夏の向こうにいる彼女が、そこにはいた。
俺はこんな写真知らない。
卒アルの中身がガラッと変わってる。
旅行に俺は行かなかったんだ。
千冬が事故に遭って、しばらく家に引きこもってた。
楽しめる気分じゃなかった。
食欲だって湧かないし、夜になっても眠れなかった。
だから行かなかった。
友達には、あとで謝ったっけ。
でも、東大寺の門の前でみんなと一緒にいる俺がいる。
修学旅行先は京都だった。
それから奈良に行って、バスで兵庫まで帰ってきて。
嘘のような話だが、写真が物語ってる。
行ったこともない場所に「自分」がいる。
そんなこと、説明しようと思ってもできない。
ここが、「違う世界」だと信じない限りは。
「7月11日やったな?」
…そう。
その日だ。
千冬が事故に遭ったのは。
「夏休みの間中、私とあんたは野球の練習をしてた。覚えとらんのか??」
覚えてたら、こんなところまで来ないだろ。
夏休みの間は、ずっと病院に通ってた。
千冬が、目を覚ますかと思い。
彼女が書いたという日記をめくっていると、野球のことばかりが書かれていた。
変化球の握り方。
走り込みの量。
理想のフォームへのイメージ。
6年生だったあの頃、俺たちは、夏の向こうに行くことを夢見てた。
史上最強のバッテリーになって、三振の山を築いていく。
そう誓って、がむしゃらにグラウンドに駆け出してた。
グローブと、ボールだけを持って。
それが、漠然とした「夢」だってこともわかってた。
なんで自分が野球をやってんのかも、正直、よくわかんない部分があったし。
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