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夕暮れと影
第155話
しおりを挟む家の中も様変わりしていた。
知っている景色もある。
でも、よく見ると、全然違う。
全部記憶になかった。
そりゃそうだ。
そもそも、なんで自分が、神戸高の制服を着てるのかもわからない。
考えることが多すぎてパンクしそうになった。
買い替えたはずの電子レンジが以前のに戻ってたり、見たこともないカーペットが床に敷かれてたりするのは、どう考えても“異常”なことだよな?
何から整理すればいい?
…一体何から、考えていけばいい?
並行世界
…並行世界
そういえば、「神戸高校に通ってる俺がいた」と、女は言ってた。
…そうだ!
思い出した。
俺と千冬はライバル関係で、一緒に甲子園にも行ったって…
話がぶっ飛んでて信じてなかったが、あの「話」の通りだと、ここは…
壁の向こう側に連れて行ってやると、女は言った。
その「壁」がなんなのかを詳しくは聞いてないが、今のこの状況を説明できることがあるとしたら…
アイツの言葉を思い出そうとした。
半信半疑でちゃんと聞いてなかった自分を恨むが、後悔したって仕方がない。
冷静に考えなきゃダメだ。
…確か、世界にはいくつかのパターンがあるって言ってて、例えば、違う学校に通ってる自分がいたり、今とは別の環境の中にいる人たちがいたり…
“自分が力を使えるのは、「可能性」の中に生まれたから“って言ってた。
意味はよくわからないが、その可能性っていうのは恐らく、「並行世界」っていう言葉となにか関係があるんだとも思う。
…とは言ってもなあ
とりあえずアイツがいないと、この状況を理解できない。
きっとアイツが、何かしたんだと思う。
じゃないと説明がつかない。
ひとまず彼女のことは「千冬」と呼ぶことにした。
違和感マックスだが、他に呼び方もなかったし。
彼女は彼女で、俺のことを「亮平」と呼ぶ。
それが、当たり前であるかのように。
俺は彼女に説明した。
”説明”って言っても色々ややこしかったが、…まあ、それなりに。
電車で起こったこと、なんでこんなに慌ててるかってこと、全部話した。
ちゃんと説明できてるかどうかはわからなかった。
でも、黙って聴いてくれた。
台所に座って、うすしお味のポテトチップスを頬張りながら。
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