雨上がりに僕らは駆けていく Part2

平木明日香

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夕暮れと影

第154話

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 俺は急いで家に帰った。

 彼女を連れて。

 こんなこと、…考えられない。

 …考えられないけど、もしかしたら、あの女はなにか知ってるかもしれない。

 どこに行ったのか知らないが、家に帰ったらいるんじゃないか?

 確証もないままに走った。

 交差点を渡って、細い路地を抜けて。

 手を握った彼女の手は温かかった。

 触れたこともないはずなのに、なぜか、懐かしくも感じられて



 …………………

 …………

 ……
 …


 ◇◇◇



 ハア、ハア、ハアッ



 玄関をこじ開け、台所に走る。

 いない…、いない

 2階の部屋も、客間も


 家の中を探し回ったが、女の姿はなかった。


 「誰探しとん?」

 「…えっと」


 説明すれば長くなる。

 さっきも言ったけど、友達未満の知り合いで…


 「アイツなら、なにか知っとるかも…」

 「なんのこと??」

 「説明が難しい…!とにかく探しとんや!」


 ラインを開いても、アイツの連絡先はなかった。

 電話をかけようにも、番号もわからない。

 …どうすればいい?

 …なんで、こんなことになってるんだ。

 目を瞑ったあの時、確かアイツは、俺の手を握ってた。

 「一緒にジャンプするぞ!」

 って、張り切った声が聞こえて、つられるように耳を澄ませた。

 それからだ。

 世界が、…おかしくなったのは。


 俺の部屋は、嘘みたいに様変わりしてた。

 ベットのシーツも、机の位置もそうだ。

 ポスターも、本棚のラインナップも、小遣いを貯めて買ったテレビゲームも、全部見当たらない。

 代わりに、ユニフォームや野球道具が散乱してた。

 ふと視線がいったのは、ドアに貼られた、「目指せ甲子園」の文字。


 …なんだこれ…


 俺の字じゃない。

 それなりに達筆で、迷いがない筆遣い。

 書いた覚えも、貼った覚えもなかった。

 机の上のノートもそうだ。

 「スケジュール帳」と題されたぼろぼろのノート。

 開くと、年月日とメモがずらずらと。

 日記みたいな感じだった。


 …というか、野球のこと?

 よく見ていくと、その日その日の練習内容が、事細かに記載されていた。

 実際にやったことと、詳しい内容。

 まじで知らない

 いつ、どこで、誰が書いた…?

 そこに書かれている走り書きの文字は、俺の字に間違いはなかった。

 間違いはないが、本当に知らない。

 …こんなの、本当に…
 
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