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甲子園
第45話
しおりを挟む女は立ち上がって、小指を立ててきた。
ありふれたポーズだ。
世界の理なんてお構いなしの、向こう見ずな顔。
そのあとに続いた、古臭いセリフ。
「指切りゲンマン」
急に何を…?
そう思いながら首を傾げると、女は言った。
「頑張るって、約束」
…訳がわからない
けど、自然と手が動いた。
女の小指と絡み合う。
細くて、柔らかい。
キュッと握った先で、グイッと力を入れられた。
「嘘つくなよ」って、強い口調で言われ。
「…お、おう」
それからしばらく千冬のそばにいた。
窓の外を見ると、空が少しずつ暗くなり始めていた。
ポートタワーについた明かり。
関西空港行きの、飛行機の音。
◇◇◇
「寄りたい場所がある」
病院を後にした後、俺たちは国道線沿いを走っていた。
建物にはポツポツと明かりが灯り初め、昼間にはなかった涼しさが、街の隙間から近づいてきた。
古びた車屋の看板に、カーブミラー越しのヘッドライト。
段差のできた道が、時々自転車を揺らし。
「どこ?」
また、キャッチボールをするとか言い出すんじゃないだろうな?
断固拒否するつもりだったが、どうやら違うらしい。
板宿を過ぎたあたりで、山沿いを走った。
道なりのすぐ下に広がる田園風景。
都心部の高層ビル群が、遠巻きに見えた。
時々、俺も通ったことがある。
まっすぐ家の近くまで行けるし、車とすれ違うこともないからだ。
長閑といえば長閑なこの道は、街の風景の一部にしては寂しかった。
地元民でもなけりゃ、わざわざ通らないだろうし。
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