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まだ、寝てたいんだけど
第31話
しおりを挟む街のいちばん低いところまで降りて、海岸線沿いに出た。
今日は風が心地よかった。
7月のジメジメした空気は消えて、カラッとした陽気さが、水面の上を掠めていた。
ガタンゴトンと通り過ぎていく山陽線の電車。
線路沿いに続いていく須磨の街並みが、穏やかな波のさざめきの中で揺れている。
「海に寄ろう」
女は、そう言った。
元々そのつもりだったのだろうから、反対する気はなかった。
線路を越えた先の道ばたに自転車を停め、彼女は、背伸びしながら歩いていく。
ジャージの上着をハンドルにかけ、半袖Tシャツを風に靡かせながら。
「おい!どこ行くねん」
「グローブ持ってきぃや?」
女はちゃっかり自分用のグローブを手に持っている。
野球経験者なんだろうな、きっと。
自転車のカゴに入っていた彼女のグローブは、かなり使い古されていた。
何年も使ってないと、ああはならない。
皮が色褪せて、紐はあちこちでひび割れていた。
けど、手入れはしっかりと行き届いていて。
波打ち際まで歩いていくと、女は立ち止まった。
「ここらへんでええやろ」と、ストレッチ始め、後ろ髪を結ぶ。
この場所で、誰かとキャッチボールをするのは久しぶりだ。
本当にするのか?と尋ねると、女は首を傾げた。
さっさと構えろと言わんばかりに。
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