COLOR CONTACT 〜『堕天使』と呼ばれた最強の悪魔の血を引く女子高生は、平凡な日常を取り戻したい〜【1巻】

獄炎蝶

第２９３話

　「…おかしいな。なんでだろう…」


　奇妙だった。

　要請は確かに送った。

　その履歴もちゃんと残っている。

　緊急指令のメッセージはおろか、エリア内通信のさえも届いていない。


　…そんなことがあり得る？


　時間は十分に経った。

　信号を送った日時を考えれば、今頃他のエリアからの応援が来ていてもおかしくなかった。


　「気を抜くと死にますよ」


　バッと、後ろを振り向く。

　深雪が振り向いた先にいたのは、切れ長の目と痩せこけた頬骨を持つ、高身長の男だった。


　シュトラースベルガーだ。


　「…あ」


　声にならなかった。

　彼が誰かを知っているが、ここにいる全員が、彼と直接話したことはなかった。

　実績も、天使としての位階も、格上の天使だ。

　それ故に、緊張が走った。


　「何者かが、連絡を阻害しているようですね」

　「…阻害？」

　「ええ。恐らく敵の仕業でしょう」


　シュトラースベルガーの物言いは穏やかで、どこか気品がある。

　丈の長い灰色のジャケットに、縁のない丸いメガネ。

　細細い目尻に沿うように、アーチ状の眉毛が垂れ下がっている。

　優しい面持ちでありながら、どこか不気味だった。

　穏やかさの中に同居している、掴みどころのない表情(カオ)。
　
　落ち着いた息遣いの下で、含みのある表情を浮かべていた。

　ほとんど無表情に近い静寂さの中に、針のように尖った肌合いを伴いながら。