COLOR CONTACT 〜『堕天使』と呼ばれた最強の悪魔の血を引く女子高生は、平凡な日常を取り戻したい〜【1巻】

獄炎蝶

第２８８話

　ドドドドドドドドッ



　逆流する滝のように、膨れ上がる熱気が立ち上がる。

　敵は直前まで避けようとしていた。

　それは意識の渦中に流れていた。

　反射的だった。

　咄嗟に、直前の出来事に反応していた。

　しかしそれが間に合ったのは、あくまで矢が近づいているという「認識」と、その接点における位置関係だった。

　矢はすでに敵の懐に入り込んでいた。

　ちょうど、地面から出てきた場所に重なるように、矢は進行していた。

　矢を放つタイミングがほんの少しでも遅れていれば、その射出角度も距離も、また違ったものとなっていたであろう。

　空間に刺す、といったイメージが正しいだろうか？

　弓から矢を放つ場合、大抵のケースでは矢を向ける対象が「点」と「線」の間に実体化しているはずだが、真琴はまるで「何もない場所」に矢を投じたように見えた。

　事実、そこには何もなかった。

　敵が現れる空間。

　その立体的な奥行きに向けて、最大限に“線”を引く。


　見える位置と、見えない位置。


　「距離」は確かに存在した。

　真琴と敵の位置を結ぶ「点」は、現在進行形において確かな“長さ”を含んでいた。

　問題は、それがどこに「介在」しているかだった。

　実際に存在する距離の長さは、両者において常に潜在化している。

　“実際に存在している「量」”、つまり、矢が命中するまでに必要な範囲は、互いの中間にあった。

　しかし、「実際の量」と「空間の大きさ」は、必ずしも同じ時間に同居しない。

　矢を命中させるために必要な空間の「実量」は、対象となる物質によって大きく変動する。

　それが動いている物体であれば尚更だった。

　矢が動くために必要なエネルギーと、距離。

　その長さや幅に生じる度合いは、部分的にも全体的にも不安定な流域に属している。

　対象に到達するまでの時間。

　その“中間“に於いて、直線的に矢が疾る。

　それが「可能」になったのは、敵の動く範囲が特定できていたからだ。

　そして、そのもっとも濃度の濃い接点に向かって、真琴の焔は勢いよく燃え上がった。