COLOR CONTACT 〜『堕天使』と呼ばれた最強の悪魔の血を引く女子高生は、平凡な日常を取り戻したい〜【1巻】

獄炎蝶

第２８６話

　夜月はわかっていた。

　敵が「どこ」から出てくるか。

　自分たちの情報は敵に漏れていない。

　敵の情報が不足しているということは、反面、相手側も同様の状態に陥っていると見るべきである。

　こちらが展開できる攻撃の範囲や、距離。

　１つ１つの動きに対する対応力と、——柔軟性。

　いくつかの要素を組み合わせた時に、１つの「場」に対する【個人単位＝チーム単位】での“展開力”がある一定の範囲内に定まる。

　その「場」に間に合わせるほどの「情報」の正確さ、及び具体性は、まだ双方において”整備されていない“。


　後手に回っていた展開が、初めて先手に回る——


　敵を呑み込んだ地面は、夜月たちがつけ入る「隙」を生んでいた。

　互いの間合いの中に折り畳まれる“窪み”。

　その深さは、互いの行動を引き出すだけの広さを伴いつつ、確かな「間」を運んでいた。


　ドッ


　敵は予期していなかった。

　あらゆる局面において、不測の事態に備えることは基本中の基本だ。

　それはあらゆる生物における防衛本能であるとも言える。

　いつ、いかなる時も自らに及ぶ「危険」を察知する。

　その防衛網を発揮するために必要な引き出しは、“全ての動作の中に”投じていなければならない。


　敵は「脱出」しようとした。

　自らを閉じ込めた坂本の魔力が、どのような「意図」の中に動いているものであれ、拘束を解かないという選択肢はなかった。

　自由に動ける場所へ。

　そのために必要な要素の一切を“拡げる”。

　半ば強引でもあった。

　力ずくで、相手の魔力を振り解くための動作を取っていた。

　懐は深く保っていた。

　不意を突かれたとはいえ、体を動かすスペースはある。

　自分を拘束しようとしている。

　なら、その「拘束」を解くもっとも最善な方法は何か？

　

　坂本は誘導していた。

　坂本自身の目的は「時間稼ぎ」であったが、それを相手に悟られないよう、低く深く魔力を押し流していた。

　拘束を「解く」ように仕向け、その感情のスペースを作る。

　「動ける」と思わせる。

　拘束を「解く」ことこそが、もっとも優先すべき事項だと感じさせる。

　そしてその誘導の根本に張り巡らされていたものは、敵を外に「出す」というベクトル、——つまり、夜月たちが“先手”を打てるスペースだった。