COLOR CONTACT 〜『堕天使』と呼ばれた最強の悪魔の血を引く女子高生は、平凡な日常を取り戻したい〜【1巻】

獄炎蝶

第２７２話

　線。


　坂本は集中した。

　意識の比重を根底から変えるほどの感情の“揺れ”。

　視野を広く構えようと、クラッグフォールの動きそのものに注力していた。


　空間を動かす。


　相手の位置を見極めることは、自らの立ち位置を正確にコントロールするための足がかりになる。

　攻撃を及ぼせる範囲を”知る”ことは、そのまま選択できる「領域」を広げることにも繋がる。

　坂本にとっての地形の変化は、「間合い」そのものだった。

　次にどう出るか、何を“してくる”か。

　交互に入れ替わる視点と、支点。

　
　空間の、支配。


　立体的な領域の下に蠢くものは、時間の経過によって度重なる“事象の変化“に晒される。

　変化の「中」に身を置き続けること。

　戦闘には個々の持つ“スタイル”が大きく反映されるが、その「型」が、決まった時間や空間の中に動けるとは限らない。

　できるだけ自らが優位に立てるように動く。

　戦いに於ける鉄則だった。

　前後、左右、空間の奥行き、——魔力の流れ。

　
　ドッ


　密度の濃い斬撃が空気を打つ。

　土埃の中心に開いた穴。

　その内側から、鈍い接触音が、敵の左足の先で浮かび上がる。

　斜めに傾いていた「影」と、体。

　散らばる岩の破片の間をすり抜けるように、——重心が、宙を掴む。


　「シッ」
　

　坂本の周囲には、鉱物が含まれた土が集中していた。

　自らの全身をコーティングするのに使用したのも、鉱物が含まれた硬い成分だ。

　左足を踏み出すために吸い込んだ息。

　その“空気“を僅かに吐きながら、敵はクラッグフォールの真ん中を抜けてきた。

　前方に接近していた岩の柱は、振り上げた斬撃によって粉々に打ち砕かれていた。

　ただし、坂本も遅れを取らない。

　意識の比重はすでに防御の「動き」に傾いている。

　その動線の支点に、魔力を集中させる。


　ギィンッ！


　自らの体に振り下ろされた剣。

　その斬撃は鋭かった。

　クラッグフォールのために使用していた魔力の一部を、シールドに変換するよう急ぎ操作する。

　形は歪だが、斬撃を防ぎ斬るだけの質量を生成することに成功していた。

　ただ、斬撃の威力は思いの外鋭かった。

　シールドの大部分を切り裂き、構えていた二の腕の表面にまで、刃が食い込んできていた。