COLOR CONTACT 〜『堕天使』と呼ばれた最強の悪魔の血を引く女子高生は、平凡な日常を取り戻したい〜【1巻】

獄炎蝶

第２７１話

　ガッ


　クラッグフォールの一部が真っ二つに切り裂かれる。

　岩の破片が、地面を隆起させたように持ち上がる。

　障害物が何もないところを滑る。

　”剣先”は、羽を動かしたときのような軽やかさを伴っていた。


　空間が動く


　地面のスレスレを、引っ張るような焦げくさい熱気が泳いでいた。

　黒い波動が、空気を押しのけるように低い弾道となって動いた。

　地面の“上”を疾る。

　剣の鋒は、重たい動作の底を引き抜くように周囲の重力を“ほどいて”いた。

　クラッグフォールは地面を削りながら動いていた。

　地中にある土の組成は坂本の手によって変わっていた。

　先手を取った粒の軌道は、うまく高低差を利用していた。

　様々な角度を使っての範囲攻撃。

　クラッグフォールも同様、「範囲魔法」に分類される攻撃だった。

　前方から押し寄せる岩の奔流をものともせず、敵は右腕を振り上げる。

　地面ごと“押しのける”。

　振り上げる動作は軽やかだった。

　軽やかでありながら、鋭い威力を伴っていた。

　空間の隙間を突く。

　そういった細長い衝撃を放ちつつ、——前へ。
　


　周囲に立ち込めていた粉塵は、濁った空気の流れの中に溶けていた。

　地面の表面は所々窪んでいる。

　窪み、ひび割れている。

　坂本が立つ位置を中心に、地形は大きく歪んでいる。

　クラッグフォールの真の狙いは、敵の行動を「制限」することだった。

　前のめりに傾く周囲の環境と“変化”が、2人の間で揺れていた。

　地面の形状の変化は、その場所に立つものの「自由」を奪うため。

　隆起した岩の柱は、あくまでカモフラージュに過ぎない。

　時間と空間のコントロール。

　重点的に“絞って”いたのは、敵の位置と距離を結ぶ立体的な奥行きだった。

　空間を平面ではなく、立体的に捉える。

　あらゆる生物は重力の干渉下にある。

　その特性を最小限に抑えることはできても、影響をゼロにすることはできない。

　地上と空間、そして、——物体間。

　いくつかの環境下に於いて、行動できる範囲や自由度は変わってくる。

　針の穴を通すように、目まぐるしい状況の変化が短い距離の中に連続していた。

　コントロールしようとする空間の範囲はまばらだった。

　この“まばら”というのは、すなわち位置と位置を結ぶ「点」のことだ。