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獄炎蝶

第265話

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 ボボッ



 粒の数は数十から数百。

 威力が低い分、少ないリードタイムの中で多くの粒を生成できた。

 入り組んだ軌道を走りながら、いくつかの粒が先頭を切るように滑空する。



 ドドドッ


 弾ける空気。

 泡ぶく砂の煙。

 宙に舞う振動が周囲に立ち込める。

 変形する地面は、攻撃と並行して進んでいた。

 坂本の両足は地面と同化していた。

 砂の一部となりながら、上半身を少しだけ屈ませる。

 相手の戦闘力を見る限り、下手に前に出るのは悪手になるだろうと判断してのことだった。

 地面の形が変化する過程でいくつかの魔力流域を形成する。

 砂のうねりが血管のように浮き上がる最中、飛び出していたいくつかの粒が、勢いよく敵に命中した。



 ボンッ



 矢継ぎ早に粒が着弾していく。

 粒の主要な物質は”砂”だ。

 そのせいか、着弾と同時に煙が立ち上がった。

 坂本は地面の下の土を利用し、全身を”コーティング”した。

 彼は攻撃性能よりも防御性能が優れていると言われている。

 もっとも優れている能力は“サポート性能”だが、一対一の局面においては、防御の面においてより優れた一面を持つ。



 ブワッ


 命中した粒が、接触と同時に粉塵に帰した。


 ——壁。


 敵の目の前には見えない何かが障壁となっていた。

 その証拠に、右手を動かしていない。

 微動だにもしていなかった。

 粉塵となって舞い上がった煙の中から、ゆっくりと歩みを続ける敵の姿があった。

 数秒前とほとんど変わらない、“穏やかさ”の中で。
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