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獄炎蝶

第264話

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 バッ


 持ち上がる塵。

 平らな地上は湾曲したように押し上がる。

 敷石が割れ、近くにあった城壁が倒れるように傾き始めた。

 無重力空間かと思えるほどの土の躍動が、瞬く間に周囲に立ち込めた。


 坂本は構えた。

 「構え」自体は、対峙した直後から始まっていた。

 警戒する意識が体温を上昇させる。

 相手の出方は時間の経過とともに変化していく。

 先に動ける範囲は、“早ければ早いほど”良い。

 砂で構築されたいくつかの粒が、地面の上を浮遊する。

 魔力で推し固められた弾丸。

 自在に砂を操りながら、微細な粒子で塊(かた)めた”ブロック“を空間内で構築していく。

 後方からの支援があった。

 夜月の電磁波と、緑間の“水”だ。


 空気が膨らむ音がする。

 それは滴る水のように、加速度的に地面の下を這った。

 踏み出す動作。

 「視線」は、相手を捉えたままだった。

 勢いよく地面に右手を被せる。

 溢れ出る吐息。

 席巻する塵の破片。


 バッ


 坂本が構築した砂の粒は、多彩な角度から空間を滑った。

 魔力の出力は抑えていた。

 攻撃の“手段”ではない。

 あくまで相手の動きを見るためのもの。

 その思惑通り、一つ一つの粒の威力は大きくない。

 代わりに、相手の進行方向を妨害するように、着弾地点を絞った。

 角度を変えたのはフェイントだ。

 注視していたのは「右手」だった。

 剣の動き、——位置。

 それがオーソドックスな剣の形状であったとしても、“近距離用“であるとは限らない。

 範囲を絞りつつ、できるだけ広い箇所に接点がいくように操作した。

 
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