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獄炎蝶

第252話

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 チサトは大気圏に於いては自由自在に移動できる。

 風属性の天使ならではの特徴だ。

 キョウカが掴まれると同時に上空へと舞い上がっていた。

 三叉戟が破壊された衝撃波は、確かな振動となって彼女の元に届いていた。

 “攻撃が届かなかった”

 そう認識した意識の片隅で、天守閣の屋根を蹴る。

 大気を揺り動かしたのは、彼女の「風」だった。

 自らが風となることで、より速く宙へと跳ぶ。

 “重力の拘束”を解く。

 解いた重力の隙間を縫うように、上空に向かって風が吹き荒れた。

 屋根の上には、くっきりとした足跡が残っていた。

 ストーミー・クラウドの風域圏も功を奏した。

 追い風になったのだ。
 
 瞬時に上空へと移動すると、その勢いのまま、キョウカの後ろ髪が持ち上がった。


 キョウカの首を掴んでいる腕。

 ——狙いは、腕が伸びている側の半身だった。


 (三叉戟の修復は間に合わない)


 天使の持つギアは、所有者の魔力が尽きない限りは何度でも具現化できる。

 いわば体の一部のようなもので、例えバラバラになったとしても修復は可能だった。

 しかし間に合わないと、チサトは踏んでいた。

 キョウカの投擲によって距離もだいぶ離れていた。

 “リンク”を切れば、ただのエーテル粒子の残骸として捨て置くことができるが、その場合再度出力しなければならない。

 右腕に魔力を込める。

 最短かつ、高威力の一撃。

 手のひらに凝集させた風を、1箇所にまとめ上げる。

 できるだけ無防備な場所を狙う。

 空間に風の層を張り、右足でそれを踏んだ。
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