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深淵からの使者

第247話

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 シュッ——


 振りかぶった右腕が、加速する勢いのまま後方へと滑る。

 視線は定まったままだった。

 まっすぐ捉えた対象への踏み出しが、空気を切り裂くようなとめどないスピードを生んでいる。

 握りしめた三叉戟を引き絞る。

 自分ごとぶつかろうという勢いだった。

 視界の中で近づいていく得体の知れない球体に向かって、選択を躊躇する時間は微塵もなかった。

 剥き出しの刃。

 形容するならば、まさしくそういった純度の高い攻撃性が、振りかぶった動作の流れの中にあった。

 “投擲”のために必要なエネルギーが、目まぐるしく全身を駆け巡っていた。

 全てが込められていた。

 三叉戟に。

 握りしめた柄を、中心に。
 


 ドッ


 爆発音に近い音。

 乾いているようで、どこか、泥濘んでいる。

 慌ただしい暴風が衝突音と共に吹き荒れる。

 白く染まった三叉戟は、鋭い刃を突き立てながら球体の表面にぶつかった。

 黒い靄の中へと突入した。

 途端に、丸み帯びた球面が変形し、三叉戟の形状に沿って窪んでいく。


 ——深く


 ゴッ


 引き絞った三叉戟を放つための捻り。

 うねるように躍動した肩甲骨周りの筋肉は、進行方向に向かって僅かな弧を描いた。

 前方へと突進する力の向きは、球体との接触点に向かって直線的だった。

 ギリギリまで、その勢いは増していた。

 キョウカの上半身は最短距離を滑るように動いていた。

 「空間」が、より近いところで深く“重く”軋んでいた。



 
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