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深淵からの使者

第246話

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 ギュンッ



 キョウカの右手には、尖端の鋭く尖った扇形のハルバードがあった。
 
 チサトの「ギア」。


 風の衝撃波を発した後、彼女は自らのギア、——「三叉戟」を上空へと投げていた。

 キョウカの飛行する軌道に乗せた一投。

 彼女の飛行速度を追い越すほどの速さで、真横を通り過ぎようとしていた。

 追い越すか追い越さないかのギリギリの境界線上で、キョウカは、それを右手で捕まえる。


 キャッチした直後、三叉戟は“氷の槍”へと変化していた。

 キョウカの魔力の影響だ。

 元々スマートなデザインだが、氷属性の付加を得た三叉戟の形状は、より長尺で、より繊靡なものへと変化していた。

 氷の衣を纏うことで、“投擲武器”としての強度を高めようとしていた。

 エアリアルドライブの出力に合わせ、チサトは三叉戟に風の魔力を纏わせていた。

 キョウカが槍に氷を付与させたのは、単に形状を鋭利にするためだけではなかった。

 チサトの魔力を”中“に封じ込める。

 水を凝固させ、”液体としての流動性を押し固める“ように、チサトの魔力を発散させないよう自らの魔力を用いて封じ込めていた。

 

 飛行しながらのコンビネーション。

 エアリアルドライブの衝撃波が、上空に鋭い「線」を引いていく。

 キョウカの“跳躍”は、敵を狩るためだけに動いていた。

 大気の壁を蹴る脚。

 その先に伝える力は、爆発的な瞬発力を持っていた。


 ——確かな力の方向と“剛さ”を保っていた。


 腕を後ろに引く動作。

 握りしめた三叉戟は、みるみるうちに白く染まっていった。
 
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