COLOR CONTACT 〜『堕天使』と呼ばれた最強の悪魔の血を引く女子高生は、平凡な日常を取り戻したい〜【1巻】

深淵からの使者

第２３８話

　ボッ


　得体の知れない魔力が、球体の中心から吐き出される。

　花弁のように開いた平らな形状は、瞬く間に名古屋城内の地面をも覆うほどの影を生み出していた。


　“何かが、——来る”



　夜月の脚。

　「紫電」によって跳躍する彼女の重心は、地面の底を烈しく穿った。

　靴底から伝わっていく振動は、地面の表面を削るのに十分な威力を持っていた。

　蹴る動作も感じさせないほどの俊敏な動作。

　土埃が舞ったのは、夜月が空中に飛び上がった後だった。

　足の形に窪んだ地面が、バチッという電流の音を残しながら、周囲の空間に微かな衝撃波を広げる。


　ズッ


　変形する重力。

　夜月はある場所へと移動することに注力していた。

　「紫電」は、本来攻撃のモーションに混ぜ込まれる技の一つで、主に中距離の間合いにおいて、彼女がもっとも得意とする技の一つだ。

　しかしこの場面は違った。

　少なくとも、「攻撃」に転じるために紫電を選択したわけではなかった。

　彼女が紫電のために脱力したのは、できるだけ速く“距離を詰める”ためだった。


　真琴のいる「場所」へ。


　真琴はキョウカと同じく、一つの選択を決めきれずにいた。

　思考の停止は僅かな時間だったが、それでも、夜月の思考に比べて時間差があったのは事実だ。

　夜月は恐れていた。

　球体から漏れ出た濃い魔力が次にどんな変化を見せるにせよ、球体からもっとも近い場所にいた真琴が、予測不能な事態に晒される危険性があった。

　今取るべき行動は「離脱」。

　得体が知れない物体が目の前にある以上、無闇に手を出すのは得策ではない。

　「紫電」を使って上空に飛び上がった夜月は、真琴のいる空中へと瞬時に移動する。

　瞬きをする間に現れた夜月の後ろ姿が、真琴の眼球内に入った。

　夜月は「断裁」を縦に構え、それを体の前に立てるように両手で支える。

　次いで、ゴム状に伸び上がる緑色の「風船」が、断裁を構える夜月の前方に割って入り、バチンッと弾けた。