COLOR CONTACT 〜『堕天使』と呼ばれた最強の悪魔の血を引く女子高生は、平凡な日常を取り戻したい〜【1巻】

深淵からの使者

第２３６話

　そして、その懸念は見事に的中してしまった。

　キョウカの放った『白蓮』は球体に着弾するや否や姿を消す。

　吸収されたように魔力が“変質“し、粉々に分解されてしまっていた。

　キョウカが感じた違和感は、着弾した直後には起こっていた。

　白蓮は確かに命中した。

　命中したにも関わらず、手に残る感触は何もない。

　そんなことはあり得ないと、瞬きもせず着弾地点を見つめていた。

　ダメージはおろか、傷１つすらついていなかったからだ。


　白蓮の着弾によって、球体は僅かに変形したように見えたが、それも束の間だった。

　球体はいわば魔力の「集合体」だった。

　しかもその質量は見た目に反して長大であり、単位面積あたりの密度が通常の物質に比べて大きく異なっていた。

　そもそもそれは“物質”ではなかった。

　大気のように実体がなく、それでいて糸のように粒子と粒子が絡み合い、どこまでも深く織り重なっていた。

　反発し、結合する。

　激しいエネルギーの波は、球体を取り巻く「黒」を膨らませ、暗い歪みを流し込むように、湾曲したエネルギーの軋みを生み出していた。

　白蓮は確かに“命中”していた。

　問題は、その後の挙動だった。

　矢の先端が球体の表面に接触するや否や、矢そのものが持つ魔力が解けたように小さくなっていた。

　“取り込まれた”と言った方がいいのかもしれない。

　夜月は球体の内部に“様々な魔力の色相がある”ことをキャッチしていた。

　それは言い換えれば、あらゆる魔力に対して「耐性」がある可能性があることを示唆していた。

　確証は得られなかったが、キョウカの行動を制止しようとした理由の一つに、それがある。

　無闇に攻撃するのは得策ではない。

　攻撃ではなく、防御に転じる方向性についても考える必要があると認識していた。

　ほんの少し、意識が傾いていた。

　「紫電」に踏み切った彼女の脚には、僅かばかりの躊躇いが生まれていた。