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深淵からの使者

第228話

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 特殊な電磁波を周囲に伝播する傍ら、“何かおかしい”と、夜月は感じていた。

 ディスチャージの効果範囲は、濃度を薄めればその半径を数キロにも拡げられる。

 距離が遠くなれば、その分フィールド内の操作精度は落ちるが、遠く離れた敵の情報を瞬時にキャッチするには、十分な情報処理性能があった。

 球体の「中」。

 彼女の電磁波が球体内部へと到達したのは、キョウカが弓を放つ前のことだった。

 夜月は“放出型”の天使であり、常に魔力を外部へと出力した状態で戦闘を行う。

 雷属性の天使にはこのタイプが多く、とくに電磁波などの電気系統を内部ツールとして利用するタイプには、魔力の流域を外部へと放出しながら行動するものが多い。

 夏木リンは放出型ではなく強化型の天使だが、戦局によっては、自らの魔力流域を外に広げ、擬似的に放出系統の戦闘や行動を行うことができる。

 カーティスとの戦闘でもそうだった。

 夜月はディスチャージの電磁領域から球体内部の情報を読み取っていく。

 情報の受信に際する時間は光の速度で行われるが、処理の中でその具体的な内容を頭の中に消化するには、少しばかり時間がかかった。

 キョウカが弓を放つ間際までに、大体の処理は終わっていた。

 ただ、言葉が追いつかなかった。

 球体の内部には何重にも組み重なった魔力の“対流”があった。

 つまり、——動いていた。

 問題は、それが「攻撃」に用いられる魔力かどうかという以前に、その複雑に絡み合う魔力内部の色相が、実体化された魔法ではなく、魔法に変換される前の波長を伴っていたことだ。

 球体の外殻は境界線のない魔力流域で満たされていた。

 目で捉える以上は、卵のように表面が「殻」で覆われているように見えた。

 ただ、実際は“剥き出し”の状態であり、魔力と魔力の繋ぎ目が無く、球体の中心を軸に“エネルギーそのもの”が収縮&回転しているような状態だった。

 「妙」だったのは、魔力の性質が、あらゆる属性に含まれるいくつかの微粒子を含んでいたことだ。


 ——もしかして


 夜月の脳裏によぎったのは、その球体が持つ構造上の「性質」だった。

 攻撃が通じないかもしれない。

 少なくとも、瞬時に察知した情報の一部から、そう予測していた。

 



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