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深淵からの使者

第226話

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 空に浮かぶ球体は、まるで「月」だった。

 黒い月。

 
 ——真琴は躊躇している。

 肥大化する黒の表層。

 その輪郭の岸辺には、底の見えない暗闇が広がっていた。

 暗闇が「視え」る。

 真琴はそう錯覚していた。

 彼女の目には、捉えどころのない深淵が空間の「中」に入り込んでいるように見えた。

 得体の知れない魔力の大きさ、——質。

 彼女が躊躇したのは、それが攻撃対象になりうるのかどうか、という点に於いてだった。

 敵の魔力であることに違いはない。

 感知できる魔力の性質を見る限り、それが魔族以外のものであるとは考えにくい。

 わからなかったのは、空に浮かぶ球体が、どんな“役割”を持っているかだった。

 黒い靄で覆われた組織は、分解できないほどに複雑に入り組んでいる。

 それでいてその純度は高く、単なる魔法では説明がつかないほどに繊細だ。

 黒い「月」に見えたのは、感知できる魔力の性質がきめ細やかに入り組んでいただけでなく、感知できる領域を超えて、捉えきれない「範囲」が広がっていたためだ。

 魔力が大きいというだけでは説明がつかないもの。

 その“得体の知れなさ”が、それを視るものたちに瞬間的な錯覚を運んでいた。
 
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