COLOR CONTACT 〜『堕天使』と呼ばれた最強の悪魔の血を引く女子高生は、平凡な日常を取り戻したい〜【1巻】

深淵からの使者

第２１７話

　氷柱。


　氷の花弁の先端にぶら下がっていた棒状の柱が、わずかな振動の中に揺れる。

　上空に舞った細やかな氷の破片が、何かを吐き出すように無数の大きさの粒を周囲に散らした。

　タバコの煙を口から吐き出すような緩やかな噴射。

　空中に飛散した氷の粒は、無重力の中を泳ぐような素早い軽やかさを持っていた。

　フワッと、丸く膨らんだ軌道の中に、湾曲する放物線を持ち上げていく。

　急速な変化。

　歪み。

　雪月花の表層を穿つように現れた“それ”は、時間の内側を抉り取るような直線的な空気の変遷をもたらしていた。

　隆起する空間の“厚み”が、そこにはあった。



　ドッ


　空中へと飛散した氷の破片。

　その中心にあったのは、断層の内部から膨れ上がってくる、鋭い魔力の“鋒“だった。

　砕けた氷の周りには、何もない。

　ただ、ゆり動く空気の変化だけが、ちぎれる重力の上澄みを掴んでいた。

　氷の花弁は、震える大気の内側を撫でるように佇んでいた。

　やさしく、それでいて厳(いかめ)しく。

　変化と呼ぶには“些細な”もの。

　場合によっては、そう捉えてもおかしくないほどに凝縮された“尖度”が、薄い紙の表面を破くように細く研がれる。

　複雑に絡み合う花の模様は、ほんの“僅か”な歪みの中に軋んでいた。

　街中を歩く雨足のようなポツポツとしたしめやかな膨らみが、静寂の内側、——そのより深いところに“届いて”いた。