COLOR CONTACT 〜『堕天使』と呼ばれた最強の悪魔の血を引く女子高生は、平凡な日常を取り戻したい〜【1巻】

バトルフェスティバル 地区予選編①

第７３話

　致命的なダメージだった。

　「屈折(リフレクション)」と呼ばれるリオン君の特性によって強制的に行動不能にさせられた相手の体は、見るも無惨な姿になっていた。



　「まだ、続ける？」


　相手天使の目はまだ諦めてなかった。

　その証拠に、即座に回復を試みようとしている。

　それが間に合うかどうかは別の問題だった。

　細胞が分裂する最中、空中に散漫した大量の水蒸気が、2人の周りを覆いながら膨らんでいた。

　魔法は封じられ、身動きも取れない。

　右腕は破壊され、右半身の翼は先端が折れ曲がっている。

　すでに次の一手を出せる状態になかった。

　せめて距離を取れる状況を作れればだが、リオン君がそれを許すはずもなかった。


　「ゲームが終了するのは、どちらかが戦闘不能になるまで、でしょ？」


　反撃の余地がほとんどない状況下で、再び風を身に纏う。

　しかし周りには水蒸気が充満している。

　大気圏は相手天使にとっての縄張りだ。

　けど、大気に浮遊している水の気体は、リオン君にとっての魔法流域でもある。

　相手の逃げ道を防ぐため、脆弱ながら水のバリアを展開していた。

　水で形成された魔法障壁を打ち破るには、領域内の魔法量を上回る必要があった。


　ただ——


　相手はリオン君の胸を貫いていた左手を自ら切り落とし、一歩後退する。

　至近距離からの離脱。

　わずか2mにも満たない距離を確保し、2人の間に確かな距離を生んだ。

　懸命な判断だった。



　「天使」は、例え心臓を貫かれても、決して死ぬことはない。

　それは天使の肉体を構成している魔力が「魂の源＝原子力」になっているからで、天使を完全に消滅し切るには、完全な肉体の消失と、脳を繋ぐ首と胴体の切断が必須となる。

　例え首を切り取られても、一定時間までに回復施術を施せば問題ない。

　そんな無敵の肉体を誇っていても、行動不能に陥らせるには幾つかの方法があった。

　それは相手天使が狙っていた、「心臓」への一撃。

　脳と心臓、それから体の一部を破壊すれば、一時的に動きを拘束できる。

　リオン君の特性にはクールタイムが存在していた。

　発動条件内ではほとんどの攻撃を防ぐことができるが、一度発動してからは約10秒間の充填時間が必要だった。

　魔力が拮抗していれば、恐らく形勢を持ち直すことができたかもしれない。

　近距離から中距離へ。

　リオン君の特性が及ばない距離へ。


　「水撃 (ショック)」


　緊急離脱しようとする相手の懐へ、空気を切り裂く音が響いた。

　円錐状に回転する渦。

　フィールドに流れ出る青の弾道。