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海に浮かぶ町
第1話
しおりを挟む学校の終わりに、思いきって唄に「今週の日曜日海に行こう」と誘ってみた。唄の方はもちろん行くと言って、手を振りながら「また明日ね」と自転車を走らせていく。その様子を校舎の裏口から遠巻きに見て、私も帰りの帰路に着いた。私の家は、海に近い。うちは漁業をやっていて、先代も先々代も漁師をやっている。私の町、伊根の見どころは、なんといっても海に面した町、というところだ。
海に近いとは言ったけど、実際は家のすぐ目の前が海。青色。2階の窓からは、家の下で波打ちながら水面(みなも)が揺れている景色が見える。潮風が鼻について、肌に染み付くかのように風は編み戸を通って流れて行き、ガラス戸には海の水から反射した光の屈折が、模様のように浮かび上がってひらひら空間の中をさ迷っている。
「海に浮かぶ町」とはよく言ったものだ。私の家の近隣の住宅はすべて舟屋という民家で、まるで海に浮かんでいる大きな船のように水の上で長い列を作っている。「舟屋」とは一階が舟のガレージ、二階が居間となったこの地区ならではの伝統的な建造物のことを指している。私の家はその中でも一番海の手前側に位置する民家で、伊根の海の色を一番近くに感じることができる場所だ。といっても、私は海と身近に触れ合いすぎているせいで、自分の家の目の前に広がっている巨大な水面が、ただの地面か、そうでないのか、時々曖昧になる。
海と町。
そんなありふれた日常の風景を、ひとつながりの景色の中に見つけることができるのだけど。
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