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ネオ・フロンティア

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かつて、人間は罪を犯した。

かつての世界には果てしない空と海が広がっており、争いもなく、豊かな生命に溢れる豊穣の自然が広がっていた。

『フロンティア』と呼ばれる地上には、七曜と呼ばれる神の使いが住んでおり、ありとあらゆる生命を育み、生物の「種」としての可能性をもたらしてきた。

【炎】【水】【雷】【土】【風】【光】【闇】の7つの属性を司る神の使いたちは、7つの種族を生み出した。

炎は人を。

水は魚を。

雷は獣を。

土は虫を。

風は鳥を。

光は植物を。

闇は、微生物を。

そのうちの1つ、炎の神使であったベリアルは、人々に可能性を感じ、自らの魔法の力を分け与えた。

「知恵の炎」と呼ばれるそれは、人々に多様な文化をもたらし、様々な生活の様式や文明を作り、独自の発展を築いていった。

しかし、「力」を得た人間たちはその恩寵に溺れるあまり、他の種族たちの生活を脅かし、少しずつフロンティアの自然を侵していった。

ベリアルは人々に警告した。

知恵の炎は生活を豊かにするものであり、自然を侵すものではない。

しかし、人々は聞く耳を持たなかった。

やがてベリアルと人々は対立するようになり、第一次魔大戦と呼ばれる戦争が勃発した。

ベリアル側についた人間たちの集団は『連合軍』と呼ばれたが、その数は少なく、逆にベリアルの手を逃れ、自由を欲した『解放軍』と呼ばれる軍勢は、大陸を覆い尽くすほどの勢力となっていた。

人々を信じ、自らの力を分け与えていたベリアルは、すでに本来の姿ではなくなっていた。

人類を粛清するにはあまりにも時間が経ち過ぎており、人間たちの勢いを止めるための力は、ほとんど失われていた。

そして、第一次魔大戦の激しい戦いの末、ベリアルは命を落とし、人間たちは勝利の美酒に酔いしれることになる。

ベリアルの炎によって生み出された人間は、自らの生みの親である創造主の首を取り、真の意味での「自由」を手にしたかに思われていた。

しかし、それも束の間だった。

ベリアルの死後、七曜の神使たちは人間たちの行いを罰しようと動き始めたのだ。

第二次魔大戦と呼ばれる戦争では、炎の力を手にした人類と、ベリアルの仇を討つために結束した神使たちとの戦いが幕を開けた。

そして、数百年も続く、長い戦いの末——


世界は、あの日以降二分化した。

人類は滅び、大地は荒れ果て、緑が溢れていたかつての豊穣の世界は、衰退の一途を辿っていた。

神は戦争を起こした神使たちを見放し、「人間」という種族を生み出した罪を贖うよう、天と地を切り離した。

自らが招いた災厄を、自らの手によって復興するよう命じたのだった。

戦争によって深い傷を負った七曜の神使たちと、僅かな生物たちを残し。


それから数千年が経った今、かつてベリアルの恋人であり、水の神使として海を司っていたイーリスは、自らの魔法を使って人間に限りなく近い種族を生み出した。

“ウンディーネ“と呼ばれる亜人たちである。

それは、ベリアルとの再会を果たすために考えた彼女なりの考えであり、かつての世界の栄華を取り戻すための1つの計略だった。

しかし、彼女の試みは「神」に仇なす行為であり、世界の禁忌として忌み嫌われていた「人間」を模造とはいえ作り出すことは、決して許されることではなかった。

第二次魔大戦以降の世界が、神の監視から離れている“神なき世界(ネオ・フロンティア)“であるとはいえ、それは一時的なものに過ぎない。

やがて世界は復興し、かつての豊かな自然を取り戻す。

そのための運動を、他の神使たちは行っていた。

イーリスの計画は、神への反逆にとどまらず、“同族の裏切り”に等しいものでもあった。

ただ、それでも…



彼女はウンディーネたちに、自らの想いを馳せていた。

かつてベリアルは、人間たちに希望を抱いていた。

神が創り出した世界は、やがて神の手から逃れなければならない。

それは反逆ではなく、背信でもない。

ベリアルは夢を描いていた。

神は生命という「光」をもたらしたが、神なき世界では、闇しか待ち受けていない。

例え神が滅びても、自らの足で生きていける「知恵」を、私たちは作り出さなければならない。

真の意味での「生」を、手にしなければならない。

だからこそベリアルは、人々に「火」をもたらしたのだ。


自らの知恵で生活を築き、新しい明日を築いて欲しい。

自らの力で、闇を振り払える「剣」を、手にして欲しい。


ベリアルは信じていた。

神の加護から離れた世界を、手にすること。

——真の”可能性“を、手にすることを。



イーリスは彼の想いを忘れずにいようと、ウンディーネたちを産み出した。

ネオ・フロンティア。

神のいない世界の、中心で。

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