雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香

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試合

第690話

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 「先生呼ぶからね?それ以上したら」

 「だったらはよ返せや!!」


 呼びたいのはこっちの方なんだよ。

 なんで私が怒られたみたいになってんだ。

 このドロボー!

 
 「じゃあ三分の一…ね?」

 「ダメ」

 「えーいいやん、ケチ」

 「ね?やないわ。どうやって三分の一にすんねん」

 「カッターナイフ」

 「こわ」

 「あーあ、私の愛しいギガントピテクスが汚れちゃったー」


 ギガントピテクス?

 猿ばかりじゃないか。

 教科書に載っているのは。

 テナガザルにフクロテナガザル…、ああ、よく見ると確かに、私の書いた字の下に、絵やテキストが何枚かあるけど。

 えーと、なになに。

 「自然における人間の位置」の縮図?

 フッ。


 「笑い事やない!」


 逆によかったじゃん。

 これで覚えやすいね。

 ギガント…なんだ?

 ピテクス?

 こんなとこ先生話してたっけ?

 てか65ページじゃん、ここ。

 あんた、授業と関係ないページ開いてない?


 「それは楓の方やないの?」

 「いやいや、私はちゃんと真面目に聞いとるから」

 「ほんとにぃ?」


 あーでもこーでもないと言いながら、授業は進んでいった。

 高校1年の夏は、思ったよりも暑く、思ったよりも騒がしく、新しい時間を運んできている。

 中学の頃よりも少し背が伸びて、見ている景色は少し変わった。

 それでも街の景色はいつもと変わらず賑やかで、校庭の松を揺らす浜風は、やっぱりどこか湿っぽい。

 今日もあと1限か。

 そう思いながら時計を見ると、グラウンドに覆われた西日の影が、1日の終わりに向かって進んでいた。

 授業の途中までは明るかったグラウンドも、太陽が動くに連れて暗くなっていく。

 薄茶色のグラウンドの土が、風に乗りながら空に舞っていた。

 サーッと過ぎていくその素早い飛行の軌道を目で追いかけながら、教科書は90ページ目。


 ああ、眠い。

 …いやいや、ダメダメ。

 ちゃんと先生の話を聞いとかないとダメだ。

 類人猿についてはもうお腹いっぱいだけど、前回の期末テストは散々だったからね。

 せめて恭子よりはいい点数を取らないとダメだ。

 真顔で母さんに睨まれた暁には、徹夜をしないといけないハメになる。
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