674 / 698
旅立ちの日に
第673話
しおりを挟む地面に転がったヘルメット。
バイクと同様、あちこちにこびりついた擦り傷が眩い日差しに照らされて、くっきり見える。
襟の部分を手で掴んでバイクのハンドルにもう一度かけようとしたら、あることに気がついた。
ヘルメットの内側に、何かが挟まっていた。
それを強引に取り出そうとしたら、地面に落ちた。
×××年×月×日有効期限
そう書かれた、電車の片道切符だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「亮平!あんたいつまで泣いてんの」
「泣いとらん」
「わがままばっかり言うんだったら、このまま置いて帰るからね」
「勝手にせぇや」
「よーしじゃあ、いつまでもそうしてな。母さん先に行っちゃうから」
いつの日かはわからない。
小学生の頃の姿をした亮平が、駅のホームの上で駄々を捏ねてた。
目には涙が浮かんでいて、これから来る1番線の電車に乗りたいと訴えかけていた。
電車の行き先はわからなかった。
だけど、ここに来るまで、とにかく走った。
先生に内緒で、午後の学校をこっそり抜け出して。
お金を持っていなかった亮平が、電車に乗れないことは明白で、どうしようもなくジリジリ駅の中にとどまっていると、駅員さんが家に連絡して、迎えにきてくれないかと電話していた。
時刻は、もう夜を迎えていた。
亮ママが迎えに来た後、2人は言い合いになって、駅を出た街の公園の隅で、近所迷惑なほどに喚き散らした。
お母さんを助けたい。
子供心に感じていたこと。
彼の思いは1つだった。
あの電車に乗りたい。
あの線路の向こうにきっと続いている、新しい明日に向かっていきたい。
そうすれば、きっと…
だけど、わがままを貫く彼に見かねてそっぽを向いた亮ママが、彼を置いてどこかへ消えた。
ずっとそうしてな!って言いながら、亮平の傍を離れていった。
亮平はその場にしゃがみこんで、わああっと泣いた。
「おかんなんて大嫌い!この場所もみんな大嫌い!こんなところにおりたくない…」
暗い夜の中で、うずくまる。
どうしようもなく深い暗闇の疎遠さから、抜け出したくて、必死に泣き叫んで訴えていた。
今すぐにでも、ここから離れたい。
この場所じゃない、光の差す場所に行きたい。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説


会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる