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がんばれ、負けるな
第655話
しおりを挟む波のざわめく音が聞こえて、ふと、すれ違ったはずの日を思い出す。
校舎の中に響いた春先の足音が、ピアノの弦の中に閉じ込められるかのようにスゥッと息を吸い、ひとひらの風が、宙を舞う。
行く宛のない時間を彷徨うように、また、ひたむきに進んでいく時の流れの因果を走るように、テニスコートの網が揺れて。
白い光の中に 山並みは萌えて
はるかな空の果てまでも 君は飛び立つ
限りなく青い空に 心ふるわせ
自由をかける鳥よ 振り返ることもせず
勇気を翼に込めて 希望の風に乗り
この広い大空に 夢を託して
川の流れのように自然と染み出た声色が、『旅立ちの日に』の歌詞を追いかけた。
みんなで合唱したあの日、花壇に咲く菫を見た。
淡い紫色に、触れれば掻き消えてしまいそうなほどの柔らかい色度。
花びらを襲う午後からの寒暖差が、校門の外に続く新しい旅路への忙しなさを、どこか、連れてくるようで。
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