雨上がりに僕らは駆けていく Part1

がんばれ、負けるな

第６３７話

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　パーーパッパー


　騒がしい街の喧騒。

　亮平と街の中を走りながら、風の岬へ行くことにしていた。

　国道2号線に乗り、海を見ながら。


　「もし、願い事が叶うとしたらどうする？」

　「願い事？」

　「ほら、なんかあるやろ？」

　「…うーん」


　船が海を渡っている。

　かつて海賊は自由を求めて、広大な大海原を渡っていたんだろうか？

　鉢伏山の麓に通る風。

　焦げくさいバイクの排気音。


　ハンドルを切りながら、後ろから追いかけてくる新快速。

　線路はどこまでも続いてた。

　街と海の中心を横断し、果てしない大地を目指して。


　頼りない彼の背中は、子供の頃よりも少しだけ、大きかった。

　まさか一緒にバイクに乗る日が来るなんて思いもしなかった。

　ってか、さっさと目的地に着かないと捕まっちゃうよ…

　こんなところで、前科持ちにはなりたくない。


　「楓は？」

　「私？」

　「なんか夢とかないん？」


　夢…か。

　考えたことなかったな。

　別にやりたいこともないんだ。

　大学に行って、それからでも遅くないんじゃないかなって、先輩達の話を聞いてると思った。

　だってまだ高１だよ？

　そんな出来た人間じゃないし、周りだってそんな話はしてない。

　それが「普通」だって、思うんだ。

　なんかおかしいかな？


　「あんたこそ、夢はないわけ？」

　「あるよ」

　「知ってる。当ててあげようか？」


　それを言葉にしなくても、お互いにわかってると思った。

　あんたの夢。

　でっかい野望。

　ガキ臭いって思ったこともあったけど、今はそんなに。

　どうせなら、日本一じゃなくて世界一。

　そんな気持ちでもいいんじゃない？って、言おうとしたんだ。

　間近で揺れる電車の音に紛れて、聞こえるか聞こえないかくらいの声量で。


　「前言ってたよな？おかんに会いたいかって」

　「…ああ、うん」

　「会いたくないわけやないんや。もし会えるなら、そりゃ会いたい」

　「…」

　「でも、仮にもう一度会えても、ちゃんと間に合うかどうかわからんのや」

　「…どういうこと？」

　「おかんは言ってた。世の中に「絶対」は無いって。永久に変わって欲しくないものがあっても、何かを変えずに、明日に行くことはできん。最後ご飯が食べれんくなっても、一人で立ち上がれなくなっても、生きることを諦めんかった。必ず、あの海の向こうに行くって言ったんや。たとえそれが、もう間に合わない時間の中にあるとしても」