623 / 698
風の通り道
第622話
しおりを挟むもうこうなったら腹を決めて、タイマン張ってやろう。
コップに満タンに入れた冷水。
いくらでもおかわりできるように、店主にお願いしてピッチャーを2個用意してもらった。
テーブルの前で手を合わせ、臨戦態勢に入る。
「なんでそんなやる気出しとん?」
「あんたらも人のこと言ってられんで」
麻婆豆腐はグツグツ煮えたぎってるし、チャーハンはチャーハンで米が見えない。
皿の上に真っ赤なパプリカみたいなものがデデーン!と乗っかってたからだ。
世紀末な絵面だ。
アキラはデザートが着く前に行方不明になってしまった。
あとで探さなきゃ。
まあ、見ててくださいよ。
私の手にかかればこんなのお茶の子さいさい。
何度もタイムリープを繰り返している女の力を見せてやろう。
…ズズ
…………
……………………んん?
…………
……ゲッ!!
「なんやこれ……、痛ッッ!!!!」
年頃の女の子がお化け屋敷とかジェットコースターとかで驚いた時に、キャッ!!とかキャーッ!って無駄に高い声を上げているが、あんなのはただのリアクション芸だと思っていた。
が、今の私にはわかる。
辛さのあまり咄嗟に「うわッ!!!」と漏らしてしまった。
辛いんじゃない。
“痛い”んだ。
どっからその痛みが湧き出てきたのかもよくわからない。
とにかくこれは異常事態だ。
これが「反射的な声」というやつか…。
思考回路が固まったままみんなを見て、手に負えなさすぎるラーメンを遠ざける。
「ね、さくら。それとこれ交換しません?」
「は?」
さくらはサイドメニューのデスソース付きフライドポテトをもくもくと食べていたが、見た目的にはまだマシな辛さっぽかった。
ソースさえつけなければただのフライドポテトだろうし、かかってる部分を避ければ…ね?
しかし絶対ムリと言われ、その場に縮こまるしかなくなる。
誰だこのラーメン考案したヤツ。
『超激辛スコーピオン』
とか、名前がダイナミックすぎるし、キャッチコピーが
『生か…、死か…』
なんて、そもそも人に食わせる気ないだろ。
つべこべ言ってもしょうがないので、黙って箸を握ることにした。
他のみんなも悶絶しながら苦しんでるご様子。
綺音に関しては全然余裕的な感じだった。
バケモンじゃねーか。
口中が痛いってのに。
結局、汗だくになりながら約1時間かけて、麺だけはなんとか食べ切れた…。
ゆっくり食べすぎて、後半は麺が伸びまくって大変だった。
スープ吸ったせいで膨らんでて、食べにくい食べにくい。
ハバネロだかブートジョロキアだか、だいたいそんなスープの香辛料が麺と結合して、とんでもない化学反応を起こしていた。
余ったスープは見なかったことにした。
多分飲んだら死ぬ。
間違いない。
苦行すぎて目的を忘れるところだったが、ここまでやって来たのには理由があった。
さっきも言ったように、ある事件を追ってのことだった。
「事件」といっても、殺人事件とかそういうんじゃない。
その「事件」は私も知っていた。
知っていたっていうのは、私がいた世界でも、一時有名になったニュースだったからだ。
最初にそのニュースを耳にしたのは、車で流していたラジオだった。
電波の悪いチャンネルをどんどん変え、最終的に「兵庫エフエム放送」にした。そこで、あるキャスターの声に耳が留まった。
「それにしても、どこにいってしまったんでしょうか」
最初は、一日中晴れる予報だった天気が悪天候に変わり、雲一つなかった青空がどこに消えてしまったのか、そういう軽いノリのトークでもしてるんだろうと思っていたが、話を聞いていると、どうも違う。
その日の朝、ある1人の男の子が家族の前から姿を消したと伝えていた。
正木公平くん。2012年6月23日(土曜日)午前8時10分頃、神戸市西区押部谷町の家の庭先から、突然いなくなった。
その当時は、家でも学校でもこの失踪事件について話題に取り上げられていた。中には宇宙人が連れ去ったんじゃない!?とか、子供は神隠しに遭うって言うから、森の中に連れ去られたんだよ!とか、憶測にもならないことを言う人もいた。それほど、不思議な事件だったからだ。
公平くんは神戸市内に住む自営業の父 (29歳) の二男で、母親が2 週間ほど前から入院したため、会社員の祖父 (57歳) の家に預けられていた。
行方不明時は兄 (4歳) と祖父宅の庭先で遊んでいたが、目を離した隙にいなくなった。
祖父宅は山林のすそのに広がる畑の中にあり、周辺は急勾配で、大人でも上り下りするのは大変な場所。
警察や地元の人たちは周辺の草をすべて刈り、納屋や用水路のマンホールなどくまなく調べたが遺留品すらも見つからなかった。
現場周辺は車の通りも少なく、23日午前中の通過車は2台と判明したが、いずれも事件や事故との関わりを示すものはなかった。
警察犬を使った捜査も行われた。
庭から町道に出たところで警察犬はニオイを見失い、ニオイはそこで消えていた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
雨上がりに僕らは駆けていく Part2
平木明日香
青春
学校の帰り道に突如現れた謎の女
彼女は、遠い未来から来たと言った。
「甲子園に行くで」
そんなこと言っても、俺たち、初対面だよな?
グラウンドに誘われ、彼女はマウンドに立つ。
ひらりとスカートが舞い、パンツが見えた。
しかしそれとは裏腹に、とんでもないボールを投げてきたんだ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。
そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。
そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。
「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」
そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。
かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが…
※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。
ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。
よろしくお願いしますm(__)m
(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?
青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。
けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの?
中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。
【1/23取り下げ予定】あなたたちに捨てられた私はようやく幸せになれそうです
gacchi
恋愛
伯爵家の長女として生まれたアリアンヌは妹マーガレットが生まれたことで育児放棄され、伯父の公爵家の屋敷で暮らしていた。一緒に育った公爵令息リオネルと婚約の約束をしたが、父親にむりやり伯爵家に連れて帰られてしまう。しかも第二王子との婚約が決まったという。貴族令嬢として政略結婚を受け入れようと覚悟を決めるが、伯爵家にはアリアンヌの居場所はなく、婚約者の第二王子にもなぜか嫌われている。学園の二年目、婚約者や妹に虐げられながらも耐えていたが、ある日呼び出されて婚約破棄と伯爵家の籍から外されたことが告げられる。修道院に向かう前にリオ兄様にお別れするために公爵家を訪ねると…… 書籍化のため1/23に取り下げ予定です。
転生者は時を遡り世界を救う
鈴木 淳
ファンタジー
転生した先は異世界ファンタジー。
そこで幼馴染の機械オタクの少女と出会うも、その少女は天才発明家の娘でタイムマシンを作っていた!
十歳の時に少女がタイムマシンを完成してタイムトラベルするのだが……。
着いた先は荒れ果てた大地が広がる荒野だった。
――これは世界を救う誰も知らない英雄の物語。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる