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【第9章】世界が終わる前に

第613話

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 会議が終わった後、亮平のところに行ってきた。

 ケガはなんともないみたいで、よかった。

 ベットの上で漫画を読みながら、大きなあくび。

 カーテン越しに止まる、午後5時過ぎの夕焼け。


 「警察になに聞かれたん?」

 「何があったのかとか、色々」

 「ふーん」


 元気だかそうじゃないんだか、よくわからないテンション。

 せっかく見舞いに来てやったのに、もうちょっと笑顔になれないの?

 引っ張ろうか?

 そのほっぺた。


 「…暴力反対」


 ふん。

 まあ、元気ならいい。

 さっきみんなで話し合ったことを伝えようと思ったが、やめた。

 めんどくさかったからだ。

 ややこしいことになりそうで。


 「キーちゃんから話は聞いたそうやな」

 「話?」

 「亮ママのこと」

 「…ああ」


 一昨日の夜、無理矢理彼を大学に連れ出したそうだ。

 未来のこと、並行世界について話すために。

 そこで全部話したっぽい。

 難しいことは省いたみたいだが、未来から来てることも、研究のことも、一通り。

 彼は、信じなかったみたいだけど。


 「私からも保証するわ。キーちゃんの話」

 「未来から来たって?ハッ。笑える」

 「そりゃ信じられんかもしれんが…」

 「お前は信じとんか?」

 「うん」

 「…まじかよ」


 その表情になるのは頷ける。

 誰だってそうなるよね、うん。

 タイムリープしてる私のことは、彼に伝えていなかった。

 私も伝える気はなかった。

 余計混乱させちゃうだけだし。


 「…会いたくないん?」


 野暮な質問だったかもしれない。

 会いたくないわけがない。

 考えなくてもわかることだ。

 そんなことは。

 でも聞かずにはいられなかった。

 もしももう一度亮ママに会えるとしたら、それはどんな時なんだろう…と思い。


 「うっさいねん」

 「答えになっとらんがな」

 「今のが答えや。わかるやろ?」


 ぜーんぜん。

 キーちゃんに言われた。

 あんたはデリカシーがない。

 自分でもそう思う時がある。

 とくに亮平と喋っている時は。


 「…いつまでウジウジしとんねん」


 どうせキレるだろうとは思った。

 でも言ってやった。

 あんたには婆ちゃんがついてるじゃないか。

 洗濯もお風呂も、ご飯も、あんなに良くしてくれるお婆ちゃん、他にいないよ?

 感謝しろよ?

 婆ちゃんがどれだけ、あんたのことを心配してるか…


 「おせっかいやなぁ」

 「お節介で結構。婆ちゃん泣かしたらしばくで?」

 「こわ」


 “亮平は変わってない”


 キーちゃんのその言葉が、耳の中で撥ねる。

 私はそうは思えなかった。

 だってどっからどう見ても、怠け者にしか見えないんだもん。

 昨日は驚いたけどね?

 あんなに必死な亮平の目を、久しぶりに見た。

 いつ以来だったかな?

 小学生の時以来?

 …うーん


 「なんや?」


 目つき悪いなぁ…

 そんなんだから、誰も近寄らないんだよ。

 せめて病院でくらいは、行儀良くしな?


 「どこ行くねん」

 「帰る」

 「もう?」

 「そうやけど?」


 なんだよ。

 何か言いたげだな。

 おつかいは頼まれないぞ?

 そろそろ帰らないと怒られるんだから。

 朝から身体中がだるいし。


 「…あんま夜ほっつき歩くなよ?」

 「どの口が言っとんねん」

 「俺は呼ばれたから行っただけやし」

 「ほー。キーちゃんは呼んでないって言っとったけど?」

 「…襲われてたって言うから」

 「それはさっき聞いた」

 「…とにかく、あんま無茶すんな?」

 「はい、ブーメラン」


 夜中中バイク乗り回してた奴がよく言うよ…

 ここはまだその時期の亮平じゃないから、私の言ってることがおかしく聞こえるかもしれないが。


 あと半年もすれば、学校に来なくなる。

 そんなこと、当時の私は想像できなかったけど、それは今も同じだ。

 なんでそんなことになっちゃったのかな

 考えたってしょうがないし、…ひとまずはいっか。

 早く帰って、シャワー浴びよう。

 月曜日だし、今日は好きなテレビがあるぞぉ

 じゃあな、亮平。
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