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【第9章】世界が終わる前に

第612話

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 「なんで新聞を出すかって言うとね、『学校公認』っていうのが重要な点かな?」

 「学校…公認?」

 「ネットとかだと、怪しいなって思わない?」

 「そう?私は別に」

 「だって怖くない?自分のことがネットに書かれてるんだよ?」

 「…まあ、そりゃあ」

 「だから最初は軽く、未来の研究をしてますっていうところから始めようと思うの」

 「例えば?」

 「…例えば、そうね、ちょっとした地震を言い当てるとか、台風の日にちを当てるとか」

 「タブレットに書かれてることを、そのまま載せないの?」

 「載せてもいいけど、書いてることは100%起こるわけじゃない。昨日はたまたま起こってくれたけど、世界線が違ったら、起こらないことだってある。私ができるのは、あくまで「確率」を伝えられるっていうこと。天気予報、みたいな?」


 キーちゃんはあるものを見せてきた。

 全国のトップニュースだ。

 断片的な一覧に過ぎないけど、これから未来で起こるかもしれないことが、ずらずらっと書かれてた。



 【国内ニュース】
 

2012年 6月
 
傾斜マンション/渡り廊下に生じたずれ(時事)
国内ニュース
スポーツ庁が発足
西野死刑囚が死亡=無実訴え拘置46年、再審請求中-名張毒ぶどう酒事件
小松コウタさんと押切友枝さん結婚
大村氏にノーベル賞=寄生虫病で特効薬-医学生理学賞
梶田氏にノーベル賞=ニュートリノの質量確認-物理学賞
第3次小野改造内閣が発足
雑居ビル火災=広島
熊谷連続殺人=埼玉
辺野古承認取り消し=翁長沖縄知事
大型マンション傾く=横浜
マイナンバー事業で収賄=厚労省室長補佐逮捕-便宜見返りに100万円・警視庁
川内2号機が再稼働=新基準で2基目-九電
小野首相が真榊奉納=靖国例大祭
自衛隊観艦式
髙橋元経産相、議員辞職を否定=虚偽記載事件「心からおわび」
首相中央アジア歴訪
大阪小6焼死再審請求/母ら2人、20年ぶり釈放
堂本投手の弟ら逮捕=プロ野球リーグなどで賭博容疑-大阪府警
東京モーターショー開幕
年賀はがきの販売開始=前園真聖さんらがPR-日本郵便
政府、辺野古で本体工事着手=沖縄
おおさか維新、衆参19人で結党



 それらはほんの一部の情報に過ぎない。

 彼女が色んな並行世界を渡ってきたように、未来で起きる出来事とその項目は、数えきれないほどだ。


 「普通は、誰も信じてくれないと思うの」

 「未来のこと?」

 「うん。みんなは、私の言うことを信じてくれたけど。話を聞いてもらうには、まずはどんな活動をしてるのかを伝えなきゃいけないと思う」

 「信じてくれんかなぁ…」

 「まあ、でも、そうかも。突然未来のこと言われてもね」

 「「活動」を伝えるって、具体的には?」


 未来は常に不確定的だ。

 100%の出来事なんて存在しない。

 明日晴れるかどうかなんて、誰にもわからない。

 それでも、未来がどこに続いているかを、膨大な「過去」が教えてくれる。

 大学での研究は、科学に基づいた新しい技術と情報革新への“挑戦”だ。

 それを、スローガンとして掲げることから始めよう!

 キーちゃんはそう言って立ち上がり、「タイムパトロールズ」の活動を広く認知してもらうきっかけを、学校から発信していこうと提案した。


 「まずは具体的なところから!ね?」

 「えー、なになに」

 「父さんがすでに公表してる「人間の脳」の研究と情報学の論文を下地にして、活動の具体性に根拠を持たせるの」

 「…回りくどくない?」

 「大事なことよ?これは。大きなことを成し遂げるには、小さなことから始めないと」


 私たちは頭を傾げた。

 綺音に至っては、そんなめんどくさいことしないでちゃちゃっとやっつけちゃおうとうずうずしている。

 ドラクエの世界だったら、あんたはきっと村の勇者になれたかもね?

 でも気持ちはわかる。

 今の話が、まどろっこしいかまどろっこしくないかと聞かれたら…ね?


 「未来は100%予知できない。だから、無闇矢鱈に情報を開示するんじゃなくて、その情報にどこまで「信憑性」があるのかを、論拠立てていかないと」


 信憑性…ねえ。

 ようは、大学で研究してる科学分野と、その研究室のチームとコラボを組んで、スーパーユニットを作成するという話か?

 言いたいことはなんとなくわかった気がした。

 ただの女子中学生が「未来のこと」を言ったって誰も信じてくれない。

 かといって匿名で同じようなことをしても、胡散臭さMAX。

 事件を言い当ててしまった場合、犯人だと疑われる可能性さえある。

 ネットだと、とくに。

 やり方は色々ある。

 正解なんてないのかもしれない。

 でも、「学業」の一貫として活動すれば、堂々と活動を告知できる。

 やってることは別に悪いことじゃないし、下手な発言さえしなきゃ、少しは話を聞いてもらえるようになるかも。

 ってことだよね?キーちゃん。


 「「情報」という水を流すには、確かな“水源”を作らなきゃいけない。街の中で突然現れた見知らぬ人が、「今から事件が起こります!」って叫んでも、変な目で見られるだけでしょ?でも、仮面ライダーが現れたら、ヒーローがやって来たって思うじゃん?まずは自分たちの目的とその背景にあるものを伝えて、流れてきた情報に線ができれば、発信する言葉に信頼が得られるわ。理想を言えば、自分たちの活動が広く認められて、警察に協力も仰げるようになるってことかな?」


 下準備にあたって、詳しく説明してくれた。

 まずは自分たちの身を危険にさらさないっていうことと、「情報」を正当化すること。

 最終目標は綺音が目指す「全部やっつける!」を達成することだが、多くの人を巻き込んでいかないとまず無理。

 でも周りの人たちに協力してもらうには、信頼関係を作っていかなきゃいけない。

 簡単に言うとこうだ。


 ①新しい部活の創設

 ②大学との提携

 ③活動の内容とその公表

 ④部員募集

 ⑤学校新聞、並びに『未来の情報誌』の配布

 ⑥ネットでの宣伝



 自分たちの活動が、やがて学校を飛び越えて全国各地にまで広まってくれたら、世界を変えることができるかも。

 周りの日常と環境を巻き込めば、たった1つのメッセージが巨大な台風の目になる。

 自分たちで新しい時代を切り拓こう!!

 と、キーちゃんは言った。


 (…おいおい、すごいこと言い始めたな…)


 と呆れていたが、円陣を組み出す始末。

 アキラまでテンションノリノリで、やってやろうぜ!と叫び始めた。


 …だめだこりゃ


 ちょっと外で空気吸ってきていい?

 暑苦しくてやってられんぜ…
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