雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香

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第598話

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 うおおまじか!!

 ナイスキーちゃん。

 いきなりの挨拶にテンパる私たちを他所に、キーちゃんは柔軟な対応を見せる。


 「今部活の帰りで、牛センターに大学の友達がいるって聞いたんです。パン研究会のイベントが3月にありましたよね?それに私たちも参加しようと思ってて」


 いつの間にそんな情報を…

 まあいいや。

 お姉さんは少しも怪しまずに私たちのことを見てくれてるし、嘘もたまには役立つね。

 てかそんなことより、目の前にいるこのお姉さんが、「早川玲於奈」さん本人だって言うことに感動しきりだった。

 ただの未来の情報で、実際に亡くなるという「結果」に私たちがまだ立ち会っていないとは言え、事件に巻き込まれていないということ、目の前で生き生きとした表情を浮かべてる様子を見て、胸が撫で下ろされるような心地だった。


 はあ、よかった…。


 目の前にいるこの人はただの他人だが、同じ須磨区の人間で、すぐ身近にいる人が「殺人」に見舞われるなんて考えたくもない。

 この人がなにをしたっていうんだ。

 もちろん、早川さんについて知ってる情報は一つもないが、キーちゃんと話しながら笑顔を見せるその姿を見て、決して悪い人じゃないって思えた。

 綺麗事に聞こえるかもしれないけど、この人を救いたい。

 そりゃ最初は「断固反対!!」って言ってしまったけども??

 それとこれとは話が別。

 ここまでくれば、何としてでも助けたいよ。

 それはきっと、3人も同じだ。

 まだ間に合う「時間」がある。

 手を伸ばせば、届くかもしれない「未来」がある。

 誰も見てなければガッツポーズしたいくらいなんだ。

 私たちはこっそりテーブルの下で手を握り合い、「よっしゃ!」って心の中で叫び合った。

 ひとまずはミッション完了!

 握った手の奥で、熱い何かが込み上げてくる。


 一通りお姉さんと会話したあと、到着した牛丼を食べながら、今後の展開についてを話し合った。

 今の段階では、事件についてを話していない。

 下手にそのことを伝えたら、変に怪しまれてややこしくなっちゃう。

 だからと言ってこのまま話しただけで終わると、ちっとも前に進まない。

 「どうするの?」ってキーちゃんに聞いて、他に良いアイディアがないか考えた。


 「いっそ私たちが4人がかりでお姉さんを捕まえて、そのまま連れ去るとかは?」

 「綺音のフットワークなら可能かもしれんな」

 「仮に誘拐が出来たとしても、そのあと私ら少年院行きやで」

 「さすがに誘拐だけやったらそこまでいかんやろ!?」

 「あんたら誘拐を軽く見過ぎ、けっこう重罪やで」

 「そうか…。じゃあ警察に電話して怪しい人がいますって言うか!?」

 「そもそも今日が事件発生当日とは限らんやろ?明日かもしれんし、明後日かも」

 「そんなん言うたらキリないで。私らバスケの練習もあるんやから」

 「うーん」


 ろくな意見を交わせないまま悩んだ。

 ひとまず牛丼を食べた後、店の外に出た。

 店にいた滞在時間は2時間くらい?

 辺りはもう暗くなってて、人通りもまばらになってきていた。

 話し合った結果、“バイトが終わった早川さんの後を尾ける”というのが、作戦の第二段階になった。

 牛センターの横にあるコンビニに自転車を置いて、店の外で早川さんが出てくるのを待った。


 寒さに凍えながら待ち続け、バスケの基礎練を駐車場で行っていた。

 フットワークの練習だったり、筋トレとかストレッチとか。

 去年の大会では3回戦止まりだったが、未来の対戦相手を知ってる私なら、対策もできるってもんよ。

 相手は姫路の琴陵中学校だったが、とにかく速攻を仕掛けてくるオフェンス型のチームだった。

 リバウンドはどのメンバーも攻撃的に仕掛けてくるし、ドリブルが止まった時にダブルチームでプレスをかけてくるのが、めちゃくちゃ厄介だった。

 バスケット用のミーティングファイルに対策を書くなりして、どうすれば相手のオフェンスを回潜れるかを話しながら、作戦を考えていた。

 試合展開の構想を練りながら、時間を潰していた矢先だった。

 早川さんが牛センターの裏口から出てくるのを見て、キーちゃんが動く。


 「よし、これから尾行しよう。絶対にバレないようにね」


 早川さんは裏口に止めてた自転車に乗り、コンビニ側に向けて細い路地に向かっていった。

 それを見て急いで私たちも自転車に乗り、後を追った。
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