雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香

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第597話

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 それに下手に死体遺棄現場に近づこうもんなら、なんでその現場を知っているのか警察に疑われるハメになる。

 犯人にだって襲われる可能性があるし、危険が伴いすぎる。


 「でもなにか策考えないと、なにもできずに終わってまうで」


 うーん…。

 ひとまず、グループリーダーの「陽美」さんに、メッセ送ったら?

 その提案をしたのはアキラだった。


 「メッセ?なんて送るの?」

 「グループにいる「れおな」さんって、早川玲於奈さんのことですか?って」


 確かに、それを聞くだけなら別に問題ないかも。

 現状ラインを既読してくれてる人の中で、新メンバーの「須藤アキラ」に対して自然に対応してくれる可能性が高いし、その程度の質問なら対応してくれるかも…

 でも聞いた後は?

 なんでそんなこと聞くの?ってならない?


 「それこそ綺音が言った西瓜祭のエピソード言えばええんちゃうか?」


 ああ。なるほど。

 それで、「れおな」さんが早川玲於奈さんだって確認できたら?


 「そりゃ、その次は…」


 その次が問題だ。

 結局本人と繋がらなければなんの意味もない。

 玲於奈さんだってことがわかっても、所在地まではさすがに教えてくれないだろう。

 いっそ緊急事態だってことを伝えて、全員でラインを送ってもらうって手もアリかもしれない。

 トーク内容にさえ気をつければ、どうとでもなる気がする。

 警察が捜してますとか、脅迫メールが届いてますとか。


 「ダメダメ。言うのは簡単やけど、ダメだった時にせっかく出来たパイプが無くなっちゃう。今唯一手がかりを見つけられる場所なんやで?もっと慎重にいかんと」

 「慎重って言うても、もう時間ないで?」


 そこでアキラが「陽美」さんにメッセを送った。

 「れおな」さんが早川玲於奈さんか?ということと、西瓜祭のこと、そしてその「お礼」がしたくて、連絡を取りたいんですっていうこと。

 とくに巧妙だったのは、研究会に入りたいのは玲於奈さんにお世話になったからだ、というプロセスを、自然な流れで紐付けしたことだった。

 「陽美」さんがメッセを返してきた。


 『早川玲於奈さんで間違い無いですよ!』

 
 何より嬉しかったのは、「早川さんなら今日はバイトだから、遊びに行ったら?」と書かれていたことだった。


 「おい!まじかよ!」

 「バイト先?どこ?!」


 早川さんが働いている先は、北須磨区にある全国チェーン店の牛丼屋、『牛センター』だ。


 「北須磨って、県道降りてさらに真っ直ぐ行ったとこやんな?」


 北須磨区っていうと、地区全体がほとんど団地になっていて、遊ぶところがほとんど無い。

 だから私たちも用事がなければ行ったことがなく、その『牛センター』についてもイマイチ場所がわからなかった。

 ひとまず地図を見て、どの付近にお店があるのかをチェックする。


 「えっと、県道をずっと降りて行くと、左手に辰巳中学校っていうのが見えるから、その付近の十字路を左手だね」


 よし、さっそくその場所に行こう。

 カフェテリアを出て、一目散に自転車に乗り込む。

 アキラが地図を持ち、先頭を切るのは綺音。


 爆速で牛センター2号店に着いた。

 正面玄関横の駐輪場に自転車を停め、中に入る。

 牛センターは食券を買って、それを店員に渡せば、勝手にテーブルに注文したものが届くシステムになっている。

 入った段階だとスタッフが何人いるかはわからなかった。

 ただ、ホールで対応している人のうちの1人が女性で、しかも大学生くらいのお姉さんだったことから、「あの人が早川さんかな?」という話になった。

 できるだけ隅の方に座り、変な目で見られないように何事もなく牛丼を待つ。

 今日の夕食はこれでオッケー。

 今のうちに母さんにメール送っとこ。


 「こちらネギとろろ丼の大盛りです」


 おお。

 さすが全国チェーン。

 仕事が早い。

 しかし持ってきてくれた店員さんは男の人で、お姉さんじゃなかった。

 そこでキーちゃんが、「すいません」と声をかけた。


 「今日神戸女子大学の見学に行ってきたんですけど、パン研究会の早川玲於奈さんって、ここで働かれてますか?」


 どストレートに聞きすぎじゃない??

 男の人が困ってる。

 そのまま続けて、

 「あの、私、「坂本陽美」の妹です。姉がいつもお世話になってて」

 と言った。

 「坂本陽美」とは、ライングループのリーダーの方だ。

 店員さんは「ちょっと待ってくださいね」と言って、ホールで業務をしてる店員さんに、今の話を伝えに行ったようだった。

 3分後くらいにそのお姉さんがやって来て、「こんにちは」と声をかけて来た。
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