雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香

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第594話

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 「なになに?どうしたの?」

 「いや…、人を探してるんだって」

 「人?」


 あああ恥ずかしい。

 これじゃ馬鹿みたいじゃないか。

 そもそもお姉さんたちからすれば、なんでわざわざここまで来たんだろうって思うだろうし、サークルの人ならまだしも、「大学」っていう色んな人が集まる場所で、所属してる学部もサークルもわからない人を探そうなんて、無謀の極みだ。

 変な奴が来たと思われてもしょうがない。


 「24歳って言うと5年生の方かな?」


 5年生?!大学って5年まであるの??


 「多分そうじゃない?それか入学する時期が遅かった人とか」

 「早川玲於奈さん…だったよね?」

 「ああ、はい」

 「あなたとはどういう関係の人?お姉ちゃんの友達とか?」


 どうしよ。

 なんて言うのがいいんだろう。

 いっそ姉を一時的に存在させてしまうのもアリだが、それはそれで本人に聞けば?って話になっちゃう。

 出来るだけ有力な情報を掴むためには、「私じゃあ調べようがなくて、ほとんど他人」という状態をまずは伝えなきゃ…

 その上でちゃんとした理由を説明しなきゃ、協力してもらえないだろう。


 えーっと…、えーっと。


 「西瓜イベントの時に、お世話になったんです。お礼が言いたくて…」


 結局綺音の力を借りてしまった。

 まあ、西瓜イベントには私も参加したし、イメージがつきやすい。

 ちょっとアバウトだったが、これ以上の名案は今のところ思いつかない。


 「お世話になったって?」


 ああもう、これ以上掘り下げないで??

 困るよ…

 なんて言おう…。

 いや、まじで…。


 「えっと、…その、スイカを食べようと列に並んでたんですけど、手に入れたスイカを落としてしまって…。落ち込んでたら持って来てくれたんですよ。しかも1個丸ごと」


 これは実話だ。

 少し誇張してるが、実際にイベントの会場内で、食べ歩きしていたスイカを落としてしまったことがある。

 新しく持って来てくれたのは見知らぬおじさんだったが、全力で頭を下げた思い出があった。

 おじさん、ごめん。

 一旦私の嘘に使わせてくれ。

 心の中では感謝してるから。


 お姉さんたちは、「へぇぇめっちゃ優しい」と感心してる様子で、「お礼がしたいんだ」と納得してくれた様子だった。

 っていうか「スイカ一個丸ごと貰った」って話は若干盛りすぎたかな?

 丸ごとって…、逆に貰ってもありがた迷惑な気がする。

 重すぎてどこに持っていこうってなるし。


 「でも、早川さんっていう人は私たちはわからないかな…。先輩に聞いてみる?」

 「ラインで聞いてみようか」


 おお、なんて優しい方々なんだ。

 とりあえずベンチに座りなよ、と言ってくれて、腰を下ろした。

 1人がスマホで聞いてくれてる間、お団子ヘアのお姉さんが話しかけてきて、色々な話をした。


 「キミは地元の人?」


 鼻先に掠めるフローラル系の香り。

 お姉さんの優しさに惚れそうになりながら、完全な癒されモードに入ってしまった。


 「はい、そうです」

 「へえ。私はね、地元は岡山なんだけど、神戸に住んでる人が羨ましくてさぁ」

 「なんもないですよ。ここら辺は」

 「そんなことないよ!岡山なんてど田舎よ!夜とか真っ暗だし」

 「岡山はほとんど行ったことないです。でも広島とかなら、たまに行きます」

 「広島も都会だよね!でも市内はちょっと遠いなぁ。行けて福山かな」

 「福山…。尾道とかなら知ってますけど」

 「尾道ね、そこはまだ行ったことないわぁ」

 「神戸はもう慣れました?」

 「全然!でも人が優しいし、ここら辺は物件が安いから、困ったことはないかなぁ」

 「困ったらすぐ近くに家あるんで、言ってください」

 「この近くに住んでるの?」

 「すぐそこの県道降りたところです。15分くらい?…ですかね」

 「まじか!じゃあ何か困ったことがあったら、尋ねるね?」

 「いつでも来てください!正座して待機しとくんで」

 「ほんとに?(笑)嘘ついたら針千本ね?」

 「えぇ…」

 「ちゃんと正座してますかー?って、インターホン押しまくろ」


 私の冗談にも、柔軟に対応してくれるお姉さん。

 素晴らしいひと時だ。

 他愛もないやり取りをしばらく続けながら、パンッ、パンッと、壁打ちしてるテニスボールの音をBGM代わりに聞いていた。

 奥側の2つのコートは今日は使用されておらず、お姉さんたちがいる一番手前側のコートと、その隣のコートが今日の練習に使われていた。

 隣のコートでは女子と男子が打ち合っている。

 面白おかしく、というか、軽く流してるって感じで。

 話していて思ったが、大学の人は神戸市内の人とは限らない。

 そんなことも、私にとっては珍しく感じた。

 なにより、標準語で喋るお姉さんが家のすぐ近所にいるなんていうのが、少し不思議な感覚だった。

 岡山に住んでるって言ったけど、1つ県が違うだけでこんなにもイントネーションが変わるんだね。

 また岡山に行った時は、案内してもらおっかな。

 というより、いっそライン交換でもしようか。

 ツイッターでもいいし、目の前にいるこの天使様と、繋がりたいという衝動に駆られる。

 10分くらい経った頃、連絡してくれていたお姉さんの方が進捗情報を伝えに来た。


 「一応声かけてみたけど、知らないって人が多いかな。ただ西瓜祭りは私たちも参加してるし、関係者結構多いから、もしかしたらその人の情報が上がるかも。でも私たちは今2年だから、5年生とかになるとちょっとわかんないかもしれない。その時はごめんね?」
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