雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香

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位置について、よーい

第568話

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 「彼はあなたを助けようとしてる」

 「クロノクロスってやつ?」

 「うん。あなたの代わりになろうとしてるの」


 …は?


 …代わり?


 「代わりって?」

 「例えばさ、100m走で彼と競争したら、負けたくないって思う?」

 「多分」

 「私とだったら?」


 キーちゃんと競争?

 …どうだろう。

 ってか、別に相手が誰であっても、負けたくはないよ。

 一応、走ることには自信があったから。


 「彼と、競争したでしょ?“いつか”とは言わないよ。それが子供の頃であっても、岬町のあの海岸であっても」


 さっきまでいた世界のこと。

 まるでそこにいた当事者かのように、キーちゃんは話す。

 彼は「走るぞ!」と言ってきた。

 胃袋の中のたこ焼きが、まだ消化し切らないうちに。


 「…そう!一緒に走ってて、気がついたらグラウンドにいて…」


 ありのままを話そうと思った。

 冬の景色と、風情もクソもない正月。

 彼とあの家にいたこと。

 母さんからのライン。


 「彼が言ってたこと、思い出せる?」


 言ってたこと?

 なんだろう。

 一瞬考え込んだ。

 くだらないことばっか言ってた。

 中身がおじいちゃんなくせに、言ってることは昔と同じ。

 ああ言えばこう言うし、屁理屈ばっか。

 大したことは言ってないよ。

 アイツの言うことだもん。


 「負けたら半分こ。そう言ってなかった?」

 「言ってた」

 「彼が言いたかったのは、多分そう言うことなんだよ」


 …へ?

 なにが?

 全然わからなかった。

 アイツが言いたかったこと?

 か弱い私に荷物持たせようとしてたこと?

 それが、どうかした?


 「あなたを助けるためには、まずはあなたに追いつく必要があった。同じスタートラインに立って、同じタイミングに息を澄まし」


 そんなこと、言ってたっけ?

 覚えてない…

 アイツが言ってたのは、とにかく「逃げる」っていうことしか…


 「クロノクロスネットワークと接続しているあなたとの同期を、切る。そのことは?」

 「あ、ああ。そっち?」


 なるほど、わかった。

 それは聞いたよ。

 長い話だったから、途中までしかよくわかってないが。


 「私を助けるためには、キーちゃんに会って、ネットワークの開発を中止するって…」

 「それは彼のついた嘘よ。本当は、そんなことはできない」

 「…え?」

 「たしかに、クロノクロスネットワークに対抗するためのシステムの開発は進めていたわ。だけどそれはあくまで、システムに侵入するためのアクセスコードでしかなかったの。重要なのは、コードの作成ではないわ。人類が存在する限り、ネットワークは存在してしまう。遅かれ早かれ、生存本能に従う知的生命体の行き着く先は、「永遠」に対する“決定”と生命の結合に他ならなかった」

 「…どういう、こと?」

 「あなたを救うためには、誰かが犠牲にならなければならない。ネットワークの排除は、端的に言えば不可能なことなの。それを無くして、人類が未来に行くことはない。でもそうなってしまうと、あなたを助けることはできない。ネットワークの存続は、あなたという「楔」が存続してしまうことになるから」

 「犠牲…?」

 「単純に言うと、そういうことよ。あなたに取って代わる誰かが、必要だった」
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