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位置について、よーい
第559話
しおりを挟む街の中ですれ違う車。
ビルの隙間を通り抜けていく風。
仕事帰りのサラリーマンや、塾に向かう学生たち。
動いている、空。
ここが“どこ“かが、わからないわけじゃない。
慣れ親しんだ街の風景に、東へと傾いていく影。
手を伸ばせば触れられるもの。
足を動かせばたどり着ける距離。
交差点の真上で、信号はまだ、青のままだった。
それがいつから青だったのか、わからないくらい。
あの時もそうだった。
この交差点、——私がタイムリープを始める前の世界で、足を動かしたんだ。
向こう側に行こう。
交錯する時間の壁を越えて、できるだけ速く、前に進もう。
きっと、青はすぐに来ると思ってた。
足を動かせば、前に進めると思ってた。
たどり着けると思ったんだ。
じっとしてても、埒があかないと思ったから。
東町四丁目の交差点。
阪神高速線の機械音。
街の向こうへと続いていく道に立ち止まり、アスファルトについた踵を上げる。
急げ。
そう思いながら、いつも探してた。
「今日」がいつか。
——明日が、どこに続いていくのかを。
その「答え」は、きっと走り続けなければ得られないと思ってた。
朝起きて、学校に行って。
部活で汗を流して、授業中に教科書を開いて。
母さんがよく言ってた。
走るのは、自分の運命だったって。
グラウンドの上に立ち、靴紐を結べば、どこにでも行ける、——そう思ってたって。
その意味を、頭の中で理解してたわけじゃない。
せっかちな母さんのおかげで、朝は二度寝しないと、思うように起きれなくなったし。
だけど、なんとなく思ってた
母さんが言ってたこと。
「走る」っていう意味。
そのことを。
ねえ、競争しよう。
子供の頃海辺で、よく追いかけっこした。
2人と。
裸足で走るキーちゃんと、鈍足な亮平。
あの頃、後ろを振り返る暇なんてなかった。
いつまでも同じ時間が続くと思い、頭上に広がる空は、自分たちのものだと思ってた。
大海原に船を出し、地平線の彼方まで行こうと言ったのは、冗談なんかじゃなかった。
走り続けよう。
いつかあの入道雲の向こうに広がる青を攫って、世界の果てに行ってみよう。
子供っぽい夢かもしれないね?
だけど、私にはそうじゃなかった。
2人と一緒にいれば、どこまでも行ける気がした。
海と山と川と、それから、空。
天体望遠鏡の向こうで指を指してさ?
天の川の向こうに流れる銀河を、恋焦がれるように見てた。
ポートキャンパスの階段を駆け上がり、屋上のドアを開いて。
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