雨上がりに僕らは駆けていく Part1

墓標のない土地

第５５７話

　でも、わからないのは、アイツがなんであんなに怒ってたのかだ。

　怒ってるというか、機嫌が悪いというか…

　この時期の亮平と、よくモメてた。

　それは覚えてる。

　しょうもない理由だ。

　貸した漫画を返さないとか。

　人の体操服を勝手に持っていくとか。

　まあ、体操服を借りパチしたのは私だが。

　そんな減るもんじゃないしと言ったら怒られた。

　プライバシーがなんとかで。

　いつもなら、そんなことでいちいち口論にならなかったのに。



　…そうか。

　…そういうことか。


　よくよく考えると、この頃の亮平って、すごくめんどくさいやつだったんだ。

　なんか言ったらすぐ怒るというか、「割れ物注意！」の貼り紙を貼られたようなガラス製のビン。

　しかもワイングラスのように薄い…

　そんな感じだった。

　確か…


　話しかけても無視するし、部活はサボるし。

　当時はあんまり気にしなかった。

　小競り合いはそれまでもしょっちゅうあったから。

　結局学校には来なくなるわ、剣道をやめるとかで、亮平のことが遠く感じるようになったけど。

　でも、この時期の亮平はまだ、隣にいた。

　うまくは言えないけど、声をかけたら、振り向いてくれる距離にいた。

　…多分、そうだったと思う。



　英語の授業が始まって、ノートを開いた。

　懐かしい文字。

　所狭しと並んでいる、難解な文法と単語たち。

　キョンキョンは相変わらずの厚化粧で、カマキリのような鋭い眼光と、物腰の柔らかいふっくらしたしゃべり方は、いつも通りのミスマッチだ。

　ふっくら加減は、トースターに入れた焼きたての食パン並み。

　そのくせ、狩りを始める時のような戦闘っ気のある顔つきは、良く言えばギャップ萌えというやつか。

　中には、キョンキョンのことをかわいいと言う人もいる。

　私はそうは思わないけど。

　だって、教室に来てほしくないもん。

　キョンキョンのことは嫌いじゃないが、いかんせん英語がね…

　こちとら、willの使い方でつまづいてるっていうのに。