544 / 698
【第8章】一瞬の風
第543話
しおりを挟む「このクソ寒いのに…」
「負けるのが怖いんか?」
そんなわけないだろう。
私が本気になれば、あんたなんてイチコロだよ。
…ねえ、バカなこと言ってないで、早く帰るぞ!
耳のそばで海の音が近くなり、回転する雲が、私たちの影を追い越していく。
底抜けの明るさと、屈託のない表情で立つ彼がそこにいて、心なしか、浮き足立つ自分がいた。
子供の頃、「明日が来ないかもしれない」なんて思うことはなかった。
それは今もそうだ。
いつだって明日はやってくる。
どんなに嫌なことがあっても。
どんなに夜が明けてほしくないと思っても。
でも亮平が言うように、「明日が来なくなるかもしれない」という可能性が、キーちゃんの記憶の中にある。
カリブ海の西に衝突したあの巨大な隕石は、世界の全てを飲み込むように、ただ、まっすぐ落ちてきた。
夢なんかじゃない、確かな現実を連れて。
彼は言うんだ。
「明日」は、まだ、今日を追い越してないと思うか?って。
その意味はよくわからなかった。
だけど、ダブったんだ。
最初の世界で、マウンドに立つキーちゃんに、彼が言った言葉と。
彼は私の目を見て、地平線の彼方を指差した。
クラウチングスタートの構え。
位置についてのポーズ。
あまりに催促してくるから、ハンデを要求した。
さすがの私も、たこ焼きをたらふく食べた後の体じゃ、うまく走れない。
だから10mくらい、距離を空けた。
50mの一本勝負。
負けたら半分こ。
そのかわり、私が勝ったら…
「…おいおい、むちゃくちゃ言うなよ」
「わざわざ勝負してやるんやから、当然」
「…しゃーないな。ま、負けんけど」
「はいはい」
思いっきり体重を乗せ、後方から吹く追い風0.5m。
「よーい」の声が届く、コンマ0への衝突音。
さざ波が揺れるその先で、「今」が動いた。
加速するスピードの向こう。
地面と空とが接触する、光と影の、真ん中で。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説


会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる