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死線
第518話
しおりを挟む裏口から中に入ると、そこはキッチンだった。
キレイに片付けられてて、トースター横のバケットにはなにも入っていない。
食器類は全部、ガラス戸式の棚に納められ、シンク横の食洗機にはコップの1つも立てかけられていなかった。
カップヌードルが1、2、3…8個!
調味料とかレトルトカレーとか、長持ちしそうなものは壁際の収納スペースに保存されてた。
冷蔵庫の扉には、2012年度のカレンダーが貼ってある。
地域のゴミ分別カレンダーみたいだ。
赤印が6月で途絶えてる。
何かの請求書や領収書が、マグネットと一緒に貼り付けられてた。
亮平はスタスタとキッチンを出て、廊下の電気をつけた。
廊下に出るとすぐ目の前に階段があった。
頑丈そうな木で、おそらく檜。
廊下はとても広かった。
玄関までの仕切りは一切なく、圧迫感がない。
そのせいで風通しがよく感じ、若干、肌寒い気がしないでもなかった。
なによりも「音」がよく響いた。
空間が狭いと、目で見て感じる以上に、音の振動が萎むのがわかる。
だけど廊下に出た先の空間からは、足音とか、会話する声とか、それが間伸びして消えてしまいそうになるほど奥へ届き、響いていた。
カーテンの隙間から、西日が差し込んでいる。
亮平についていくと、床が一段、高くなった。
キッチンがある部屋からぐるっと回って、家の中央にある階段を隔てた、向かい側のスペースだ。
段差の上は、家の断面を切り取ったように、襖が壁になっていた。
まるで、この家の真ん中を区切っているようだった。
宴会場の貸切部屋みたい。
襖は、大きな部屋へと通じる仕切り。
一目でわかったんだ。
その仕切りの向こうは、きっと、広い空間になっている。
そして、その勘は当たった。
「障子開けてくる」
横並びに連なっている襖の真ん中をガラッと開けると、その勢いに圧されて擦れた木の匂いが、ブワっと鼻先に膨らんだ。
小窓から入ってくる日の光が畳の上に降り、それが静寂の底を射つように、しんと沈んだ。
光が吸い込まれていく。
静けさが増す。
冷たい空気が、整然と敷き並ぶ畳と、背の高い天井の中心で吹き抜けていく。
家を丸ごとくり抜いたような、だだっ広い奥行き。
それが、視界の真ん中にやって来た。
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