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死線
第516話
しおりを挟む「こっからすぐ近くやから」
こんなところに実家があるなんて、子供の頃は知らなかった。
大阪に実家があるって聞いた時は、てっきり都会にあるんだと思ってた。
あとで田舎だって知ったけど、いざ来てみると、本当に田舎だ。
ってかさぶ!!
これ、風邪引いたらどうしてくれるんだ??
上着を貸してくれるのはありがたい。
けど、傘もないし、霙みたいな粒が当たって冷たい。
スニーカーじゃ足も滑る。
20センチくらいは積もってた。
靴底がほとんど無いせいで、ズボズボ歩いていると雪が染みてくる。
近いってどこよ?
ここから何分くらい??
「20分」
「…あー、そう」
駅を出て大通り沿いに進んでいくと、途中電気屋さんがあって、その真向かいの路地をまっすぐ歩いた。
新築の家が結構ある。
「売地」と書かれた看板が、道中にいくつかあった。
好評分譲中とか、契約済みだとか。
ここら辺は、結構人気スポットなのかな?
古い家もたくさんあるけど、割合的には半々っぽい。
水路を横切った先の一方通行の路地を通り、そのまま道なりに進んでいくと、石垣で囲まれた神社が見えた。
石造りの階段の向こうに、巨大なイチョウの木が立っている。
背が高くて、ずっと昔からそこにあるんだというような存在感。
黄色い葉が揺れていた。
心なしか、悴んでいるようにも見えた。
神社の屋根に積もった雪が、すっかり瓦の色を変え、庭先の池にはぶ厚い氷が張っていた。
ガードレールも何もない細道。
石垣に沿って歩いていると、神社の裏の雑木林がちょうど傘になって、微かな陽の光が木々の隙間から落ちてきた。
木の葉を揺らす風が通り過ぎて、雪はその静寂を縫うように、光と影の切れ間に零れてくる。
さぁぁという音が、林の向こう側から響いてきた。
気温がぐっと下がった。
捉え所のない寒さが、私たちのそばを横切った。
「ここ、夜通ると絶対怖いよな…」
「俺、そういうの信じないから」
なに見栄張ってんだよ。
よく怖がってたじゃん。
夜1人でトイレに行けなくて、婆ちゃんに声かけてたの知ってるぞ?
新作のホラーゲームを一緒にやった時なんか、ゲームよりあんたの悲鳴に私はビビった。
男のくせに「ひゃうっ!」とか奇声を発しだすから、思わず振り向いたんだ。
「そんなことあったっけ?(笑)」
「勝手に記憶を消去すな」
道は少し勾配になり、坂を登り切ったところで拓けた土地に出た。
見渡す限りの田んぼと、その合間に点々と立ち並んでいる家が見えた。
猫車が放置されている道端の畑。
熟した柿がまだ落ちずに残っている柿の木。
小川の音がさやさやと聞こえて、一段と静かり返った景色の真ん中で、亮平は言った。
山の麓に連なる段々畑の上で、一際大きな屋根瓦を携えた、昔ながらの家を指差し。
「あそこが家や」
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