雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香

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世界と楔

第500話

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 ねえ、楓。

 あなたはそれでいいと言うけれど、本当は怖い想いをしてるんじゃないか?って、いつも思うんだ。

 ネットワークの中に閉じ込められ、ある段階で、あなたの中に保存されている記憶の全ては、消去される。

 それはあなた自身の意識が、「存在し続ける」という苦痛に耐えられないからよ。

 ネットワークの管理システムはあなたという自己人格を制御し、コントロールを続けている。

 あらゆる世界線の中に存在しているあなたが、その果てしない茫漠とした「永遠」に直面し、生きることを諦めてしまわないように。

 だから、きっと、このメッセージを受け取っている「いつかの世界のあなた」は、他の世界線にいるあなたの記憶や時間を知らないでしょう。

 自分が過ごしている人生が、他の誰でもないたった一つの時間の中にあると認識し、「今日」という日を過ごしているに違いないわ。


 私は、あなたには自由でいてほしいと思っている。

 誰もが平等な人生を送っているように、あなたにも、“確かな時間”を過ごしてほしいと思っている。

 あなたは反対するかもしれないけど、私はあなたを救いたい。

 それによって世界が滅んでしまっても、私は構わない。

 元々これは、私たちが招いてしまった過ちなんだ。

 「永遠の命」なんていうものはどこにも存在しない。

 それを望んでしまうことは、明日の世界を否定することと同じなの。

 世界はいずれ滅びる。

 形があるものは、いつか世界から消え去る。

 人生には限られた時間しかないように。

 「死」があって、「生」が存在しているように。

 でもだからこそ、「明日」があるんだと、私は思う。

 「生きる」っていうのは、「永遠の時間を手に入れる」っていうことじゃない。

 走って、走って、それでも間に合わない時間があるから、後ろを振り向かないでいられる。

 そして、振り向かなかった先に、「今」がある。

 結果が生まれるよりも先に、動くことができる。


 ——それが、私たちなの。



 手放してしまった刹那を、「永遠」は返してくれない。

 「今」を手放さないための方法は、たった1つだけ。

 それは、1つだけの真実に向かって、一度も曲がらないこと。

 逃げも隠れもしない一度きりのスピードだけが、この世でもっとも確かな「今日」を連れてくるんだ。

 振りかぶった一球が、まっすぐ向かっていける瞬間を。




 夏の空の下で、あなたともう一度出会える日を、夢見ている。

 生と死、その交差点の真ん中ですれ違った、あの日を。


 私たちはまだ、「昨日」の中にいる。

 明日になりきれない重力の渦の中にいて、光さえも出てこれない。


 「生きること」に手を伸ばしているだけでは、辿り着けない。

 「死」を受け入れるだけでは、追いつけない。

 そんな1秒の最中に、私たちはいる。

 
 だから、いつか、無限に広がるこの世界であなたを見つける。

 あなたが、「可能性」の外側に飛び出していける時間を、——必ず。
 
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