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1秒後の昨日、1秒前の明日
第473話
しおりを挟む「でもキーちゃんは、…未来で…」
私が言いたかったのは、キーちゃんの記憶の中にある、確かな時間と、「人生」だった。
幸せな家庭を築いて、研究のために時間を費やして。
たくさんの家族に囲まれて、隕石が降るあの日まで、元気に過ごした。
病気になってるなんて、そんな「時間」はどこにもなかった。
何かの間違いなんじゃないのか…?
そんな「世界」、あるわけない。
そう思わずにはいられないほど、笑顔に満ちた明るい世界が、その形を失うこともなくありありと残っている。
ここに。
この頭の中に。
「世界はバランスを保ってる。その話、聞いたことは?」
「…あるよ。あんたから聞いた」
「俺から?…そうなんや。内容は覚えとる?」
「…えっと、例えば、過去の出来事を変えても、その出来事の代わりになることが、必ず生まれる、的な?」
「そうやな。つまり言い換えれば、元々の世界、——つまり初期の世界で存在していなかったものが存在することになると、その代わりに何かが存在しなくなる」
「…え?」
「お前は“知って”しまったんや。自分が存在してしまうことで、代わりになった「代償」があると」
代償…?
亮平の言ってることはすぐには理解できなかった。
でも、理解できる部分もあった。
それを、正確な表現として外に出すことはできなかったけど。
「千冬は、少なくとも“俺たち3人がいた”世界線では、未来で病気になり、自分の足で歩けなくなった。何度過去に戻っても、結果は変わらんかった。まるで、運命に囚われてしまったかのように」
「…そんな、嘘や…」
「せやからお前は、千冬が歩ける世界を探そうとした。自分が存在していることで、千冬が歩けない未来があるのなら、自分の手で、その未来を作ろうとしたんや」
…その言葉をどう受け止めればいいかわからない。
わからないことが多かった。
まず、そんなこと私は知らないし、身に覚えもない。
世界の楔とか、私を救うだとか、キーちゃんが歩けない未来だとか。
どこから聞き直せばいいかもわからない。
たじろいでいる私を横目に、彼は言った。
今、世界で何が起こっているかを。
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