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1995.1.17
第457話
しおりを挟む川に溺れていた子供は、あの日以来まだ、行方がわかっていない。
おじさんも言っていたように、母さんは結局、意識が戻ることも、目を覚ますこともなかった。
でもそんなこと、想像することもできない。
…想像したくもない。
母さんは「昔陸上やってた」って、自慢話のように教えてくれてた。
オリンピックに出れたかもしれない。
そう、ドヤ顔で。
あんたはすごい遺伝子を受け継いだ娘なんやからと、軽快なトーンで笑う。
冗談だと思ってた。
冗談ばっかり言う人だったから。
どうせ、話を盛ってるんでしょ?
オリンピックに出場してる母さんなんて、想像できないよ。
そう茶化すと、「それどういう意味?」と突っつかれ、ムスッとこっちを見てくる。
お母さんはお母さん。
お節介で、神経質で、そのくせ料理の味付けは大ざっぱで、おしゃべり。
女子力は私の方が高いんじゃないかな?
参観日にエプロンをつけたまま慌ててやって来るのは、うちのお母さんくらいだよ。
…ほんと、恥ずかしかったんだから、あの時は。
母さんも父さんも、元々の世界では亡くなってしまっている。
そんなことが現実だとは思えないんだ。
だけど2人の関係は、疑いようのないほど純粋で、綺麗な世界の下にあった。
「私」が生まれたのは、クロノクロスネットワークを用いて父さんが過去に戻り、あの雨の日に母さんを助けたからだった。
新しい世界線が生まれ、その先で、「私」という存在が生まれた。
2000年。
20世紀末のことだ。
試験に合格し、その1年後の夏、父さんは母さんにプロポーズした。
この街、——須磨海岸の海辺で。
一緒に生きて行こう。
ともに未来を切り開いて行こう、——と。
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