456 / 698
1995.1.17
第455話
しおりを挟む結局、母さんは陸上生活を諦めることになったけど、最後まで全力で、走ることに夢中になっていた。
そしてその先に、未来があると信じていた。
雨が降っても、明日晴れることがなくても、向かっていかなければいけない時間がある。
立ち止まっていても、明日は来ない。
だからあの時、川に溺れた子供を助けようとしたのかもしれない。
1993年9月に降った、西日本豪雨災害。
氾濫した川の中で、助けを求めて叫ぶ子供がいた。
母さんは、橋の上から、その子供の姿を発見した。
電話で消防隊に連絡したが、とても間に合いそうになかった。
周囲には誰もおらず、雨の勢いはますます強くなっていた。
周りに誰かいれば、協力して少しでも助けられる可能性が上がる。
でも、誰かを探して、時間をかけている猶予などなかった。
いつ足が深みにハマって、子供を見失ってしまってもおかしくない状況にあった。
だから飛び込んだんだ。
一刻も早く、助けなければいけないと思って。
…だけど、川の流れは思った以上に速かった。
そして思った以上に、体が動かなかった。
服に水が染み込み、全身が鉛のように重い。
頭で思い浮かべるイメージの先で、足や手の動きが滑らかに進んでいかない。
川の流れは複雑で、絡みつくように触れてきては、流れの方向に容赦なく押し出そうとしてきた。
掴むものが何もなく、ただ、横方向に流されそうになる体を支えるのに、必死だった。
とても、子供がいる場所にたどり着けるほどの正確なアプローチは、できそうもなかった。
それでももがき、がむしゃらに体を動かした。
気がつけば意識が暗転していた。
「助けて!」
その子供の声が、激しい水のうねりの音の中に紛れながら、降りしきる雨の勢いが、無情に強くなり続けていた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説


どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる