雨上がりに僕らは駆けていく Part1

1995.1.17

第４４５話

　しまい忘れのマヨネーズ。

　干しっぱなしの洗濯物。

　割れたガラスコップ。

　音量MAXのラジカセ。


　一緒に生活してたら色々あるから、逆に何もないなんていう方がおかしい。

　そう思えば済むだけの話だったのに、だんだん会話も少なくなっていった。


　いつの日かきつい言葉を吐くようになり、離れていく距離。

　大したことはなかったんだ。

　きっと。

　わざわざ怒るようなことでもないことが積み重なって、心にもないことを言うようになる。

　母さんが放った一言。

　それに対して怒った静香さん。

　妹が家を出たのは私のせいだって、言ってた。

　「出てく！」っていう言葉を引き止めもしないで、一番忙しい頃の妹を1人にさせてしまったこと。

　もし、静香さんが部屋を出ずに、ボロアパートに住むようなことがなければ、あんなことにはならなかった。

　大学生活が落ち着くまでは、どんなことがあっても無理をさせるべきじゃなかった。

　そう思っても、もう手遅れなんだ…


　毎年追悼の灯を燈すのは、絶対に忘れちゃいけないことがあるから。

　1月17日になると、嘘みたいに真剣な顔になり、手を合わせてた。

　幼い頃の私には、その光景は奇妙だった。

　どうして手を合わせてるのかがわからなかった。

　お母さん？

　と呼びかけても、優しい眼差しで

　なに？

　って返される。

　なにしてるのって聞くと、


　「願い事」


　そう言った。



　何百本もの蝋燭で綴られた


　『がんばろう神戸』


　の文字が、寂しそうな母さんの横顔の向こうで、煌めく。

　
　まるで、今日という1日が、もう二度と取り戻せない昨日の世界を、手を伸ばして追いかけているように。