雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香

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1995.1.17

第442話

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 1995年、1月17日。

 5時46分52秒。



 この日に起こった地震のことは、子供の頃からよく知っている。

 1月17日に開催される「がんばろう神戸」の追悼イベントに、毎年、家族全員で参加していたからだ。

 震災の影響で、地元の須磨区も大きな被害を受けてた。

 私が生まれる頃には、壊れた家屋や建物も、すっかり綺麗な状態になり、元通りになっていた。

 だから今も、その当時の状況を、写真や映像の向こう側にしか、見ることができない。

 だけど、今でも、街の人の心に残っている。

 あの日に亡くなった人のこと。

 パニックになった世界。

 逃げることができなかった人たちが、いたこと。


 あの日、母さんは、震災で妹を亡くしてた。
 
 昔、涙ながらに話してくれたことがあった。

 梨紗と大喧嘩した時、仲良くしなきゃダメだよと言ったそばで、自分にも、妹がいたんだと。



 神戸市東灘区の木造アパートに住んでいた片岡静香かたおかしずかさん(当時20歳)は、大学の同僚たちと一緒に自宅で飲み会を開いてた。

 静香さんが住んでいた家は2階建てアパートで、その1階部分に、部屋を借りてた。

 夜が更け、街が眠りについていた頃だった。

 突然の大きな揺れ。アパートは大きく軋んだ。

 リビングで寝静まっていた静香さん他3人の大学生が、地震が起きたことに気づいていたのかどうかは、今でも分かっていない。

 夜中に都市を襲った直下地震は、阪神・淡路地域の建築物等に倒壊、火災等甚大な被害をもたらし、多数の死傷者、被災者を出した。

 本震発生前夜の1995年1月16日に、前震が4回あった。

 その後、1月17日午前5時46分、明石海峡下を震源としてM7.3の大地震が起こったのだった。

 夜中だったということもあり、住家で寝ていた多くの人々が家屋の倒壊や家具の転倒によって死亡した。

 また、倒壊により直接死亡しなかった人たちも、倒壊家屋の下敷きとなったため逃げることができず、火災に巻き込まれて死亡するケースが多発した。

 あの日の夜のことを、母さんはよく思い出すらしい。

 助けを呼ぶ妹の声を聞き、その音のする方向へ手を伸ばしても、届かない。

 何度となく見るこの夢に魘されながら、ベットの毛布をはぐり部屋を出る。

 外の空気を吸おうと、行く宛もなく街に出た。

 路地の向こう側へと、歩いた。


 街のどこかで救急車のサイレンが聞こえた。

 まばらな自動車の排気音。

 交差点の信号機は無機質に点滅していて、人気ひとけがまるで無い物静かな時間。
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