雨上がりに僕らは駆けていく Part1

【第７章】須磨と海

第４３３話

　彼は頷くわけでも、首を横に振るわけでもなかった。

　表情は、そのどちらとも取れる辿々しさの中に固まっていた。

　返答が待てず、「どうなんや！」と、催促した。

　恐る恐る、彼は口を開いた。


　「…知っとる…けど」


　…やっぱり。

　安堵しながら、尋ねた。

　だけどそれはほとんど勢いだった。

　どんなことを聞けばいいのか、ぶっちゃけ、よくわからない部分の方が多かった。


　「最初の世界のことについては！？」


　それが正しい“表現”なのかを、いまだによくわかっていない。

　でもそう言うしかない。

　彼に伝わるかどうかはわからなかった。

　伝わらないかもしれないと思った。




　「…最初の世界？」

　「タイムクラッシュが起こる前のこと！」

　「…待て、何でそれを？」

　「そんなことはどうでもいい！知ってるんか！？」

　「知ってるが…」

　「…あんたが死ぬ…！何とかしないと…！」


　本当にそう思った。

　ここにいる場合じゃないんだ。

　気がついたら日付が変わってて、キーちゃんの声が聞こえた。

　繋がらない電話の先で、人だかりのできた交差点。

　走ったんだ。

　できるだけ早く、あんたのところに行きたかった。

　伝えなきゃいけないことがあったんだ。

　…いや、それよりも、あの交差点で起きた出来事を、変えたかった。

　運命なんてクソ喰らえだ！

　そう思った。


　「なにが…あったんや…？」

　「あんたが死ぬ…。最初の世界で…」


　それ以上の確かな言葉を、探し出すことはできなかった。

　ただまっすぐそう言うしかないと思った。


　なにがあったのか。

　なにが起こるのか。


　私しか、その「時間」を変えることはできない。

　キーちゃんの記憶の中で、その感情が行ったり来たり、往復してた。

　自分という存在が何者で、どこから来たか。

　そんな具体的なことよりも、もっとずっと深部にあるもの。

　体の奥底に感じる、直感にも似た反射速度。

　それが、叫んでたんだ。


　私が変えなきゃ、あんたがいなくなってしまう…。

　消えてしまう…